法改正によるデザイン保護の拡充
3月1日に「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。
その中には、意匠法の改正についても盛り込まれており、保護されるデザインの対象が拡充される見込みです。
どういったデザインが新たに保護されることになるのでしょうか。
これまでの保護対象
物品の縛り
これまで、意匠法の保護対象は、「物品の形状等」という定義上の縛りがありました。
つまり、意匠法で保護できる(=登録できる)デザインは、「物品」のデザインに限られていたのです。
ここで、「物品」とは、有体物であって、かつ、動産であることが要件として挙げられています。
そのため、この二つの要件を充たすものが意匠法の保護対象でした。
例えば、以下のような”物”が意匠の登録対象です。
- 乗用自動車
- ボールペン
- 包装用袋
- 菓子
- オーディオディスクレコーダー
物品に記録された画像デザイン
ところで、オーディオディスクレコーダー(DVDプレイヤー)のようなデジタル機器は、操作用画像が表示部や外部ディスプレイ(テレビ)に映されたりします。
こういった”物品に記録された画像”も有体物であると認められ、保護対象になっていました。
また、ソフトウェアの画像も、スマホやパソコンにインストールできるものについては、「●●機能付き電子計算機」のようにソフトウェアの機能を備えたスマホやパソコンという”物品”の概念として捉えて保護できました。
建築物・店舗内デザインの保護は保護対象外
一方、”動産であること”が要件のため、不動産である建築物や店舗内のデザインは保護対象外でした。
過去には、コメダ珈琲の店舗デザインの模倣行為が不正競争防止法の事件として報道されたことがありますが、このような店舗の全体的なデザインは、意匠法では保護されませんでした。
追加される保護対象
ところが、昨今、デザイン経営が注目され、デザインの役割・利点を意識して事業活動に役立てる企業が多くなってきています。
行政としてもそういった企業の活動を後押しするべく、デザイン保護の対象が拡充されることになりました。
法律的には意匠の「物品」の定義が変わるのではなく、これまでは「意匠=物品の形状」だったのが、「意匠=物品の形状+画像デザイン+建築物の形状」となるのです。
画像デザインの保護の拡充
これまで、上述のとおり、一部の画像デザインについては保護されていましたが、”物品に記録されていない画像”は、保護の対象になっていませんでした。
例えば、インターネット上で情報が表示されるような時刻表アプリのインターフェース画像は物品に記録されておらず、物品の要件を充たしていませんでした。
今度の法改正では、このような物品に記録されていない画像についても保護の対象になります。
ただし、何でも保護されるわけではなく、「機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限る」との限定はあります。
したがって、時刻表アプリや、壁に時刻を投影するような時計については保護対象になります。
一方で、テレビ番組や映画の映像自体は保護対象にはならないでしょう。
建築物・店舗内デザインの保護
建築物
これまで意匠法の保護対象ではないとされていた代表格ともいえる「建築物の形状」が保護されます。
ただし、意匠の要件には、新規性(「新しいこと」)や創作非容易性という要件があるので、原則として、建築物を建てた後は意匠権は得られません。
必然的にデカくて目立つ建築物の保護は、設計段階でやっておかないといけません。
店舗内デザイン
今回の法改正の目玉商品と言ってもいいかもしれない「店舗内デザイン」の保護。
全体として統一感のある店舗の内装が保護対象になります。
これによって、店舗の雰囲気のような部分も財産として保護される余地が高まります。
店舗の内装の権利をうまく活用すれば、過去の記事「「カミナリステーキ」は「いきなりステーキ」の商標権を侵害しているのか」で紹介したような真似は少しは防ぐことができるかもしれません。
ただし、こちらも新規性等の登録要件はクリアしないといけません。
改正法の施行時期
施行は、法律の公布から1年以内とのことなので、今国会で法改正が成立すれば、遅くとも来年には施行されます。
後になって「意匠出願しとけばよかった!」とならないように、今年は、法改正を見越したデザイン戦略、事業戦略が必要です。