「カミナリステーキ」は「いきなりステーキ」の商標権を侵害しているのか
外食産業では、業態のパクリは日常茶飯事。均一料金が流行れば各社が均一料金の業態を出し、相席居酒屋が流行ると同じような相席居酒屋が雨後の筍のごとく登場します。
そんな中、ペッパーフードサービスの「いきなりステーキ」の業態が一躍有名になり、他の外食企業も参入してきました。
<いきなりステーキの看板>
中でもモンテローザが運営する「カミナリステーキ」が”モロパクりすぎる”と話題になっています。
私自身、街中でカミナリステーキを見かけて、パクリ感が満載過ぎて、パロディ的な店かと思ったほどです。調べれば大手のモンテローザが運営していると知ってさらにびっくり。
<カミナリステーキの看板>
今日は、この「いきなりステーキ」と「カミナリステーキ」を題材に、商標権の権利範囲について考えてみたいと思います。
両社の商標権
まず、ペッパーフードサービスもモンテローザもそれぞれレストランサービスについての商標権を取得しています。
ペッパーフードサービスの商標
商 標:いきなりステーキ
登 録 日:2014年4月11日
登録番号:登録第5663544号
モンテローザの商標
商 標:カミナリステーキ
登 録 日:2018年5月11日
登録番号:登録第6041244号
商標権を取得することの意味
商標権は、お役人が審査した上で権利が発生するので、例外はあるものの、
”商標権を取得した”=”他人の商標権を侵害するリスクを回避した”
という一応の安心材料になります。
なので、「カミナリステーキ」が「いきなりステーキ」をネーミングまで”参考”にした業態だとしても、モンテローザが、「カミナリステーキ」について商標権を取得してその権利範囲で「カミナリステーキ」を展開する限り、ペッパーフードサービスの商標権を侵害しないのです。
つまり、パクリの業態においても、商標権を取得することは、その店舗名で事業展開していく上での安心を得られるという意味があるのです。
モンテローザのウェブサイトによると、「カミナリステーキ」を開始したのが2018年5月とのこと、上記の「カミナリステーキ」の権利発生のタイミング(登録日=2018年5月11日)と合致します。
ひょっとすると、モンテローザは、商標権侵害のリスク回避(店舗名を使うことの安全)を確認してから新業態をスタートさせたのかもしれません。
商標の範囲って?
商標は「自分の商品やサービスを他人の商品やサービスから区別するための目印」です。その権利が商標権です。
そして、商標権は、一字一句同じパクリの目印に加え、紛らわしい目印(類似の商標)にも及びます。
でも、「カミナリステーキ」みたいにモロパクりってわかる商標権が取れるなら、紛らわしい目印(類似の商標)って何ぞや?と思われるかもしれません。
特許庁が「カミナリステーキ」の権利を認めたのには、商標の類似の判断基準が以下から構成されているためです。
見た目の違い
発音の違い
意味合いの違い
この3つの観点を総合的に観察して、類似するどうかが判断されます。
そして、<見た目の違い>については、「いきなりステーキ」と「カミナリステーキ」とでは、最初の2文字「いき」と「カミ」の形が違います。
また、<発音の違い>については、「いきなりステーキ」と「カミナリステーキ」とでは、最初の2音が異なり、その違いは容易に聞き分けることができます。
さらに、<意味合いの違い>は、”いきなり”(突然)と、”カミナリ”(雷)とでは、まったく意味合いが異なります。
そのため、商標の権利としては、「いきなりステーキ」と「カミナリステーキ」とでは、類似しない(=紛らわしくない)のです。
皆さんも、パクリとは分かっても、「カミナリステーキ」に「いきなりステーキ」と間違って入ることはないでしょ!?突き詰めると「紛らわしい目印」かどうかは、そこがポイントになるのです。
モンテローザの狙いと注意点
そういうわけで、「カミナリステーキ」は、商標権侵害の問題は一応セーフと結論づけることができます。
モンテローザとしては、「いきなりステーキ」のパクリ感を満載にすることで、「いきなりステーキ」の知名度を利用しつつ、新業態の店であることを安くPRできたことでしょう。
狙ってやっているとしたら本当にすごいです(褒められることではないと思いますが・・・)。
ちなみに、商標権の侵害じゃないから何をやってもいいのかというと、そういうわけではなく、コメダ珈琲がマサキ珈琲を訴えた事件のように、不正競争行為として禁止される場合もあります。
モンテローザはパクリ過ぎてやけどしないように注意が必要です。