ウイスキーの小分け販売は商標権侵害になるか?

近年、国産ウイスキーが世界的にも認められ、国内外で注目されていることもあり、価格が高騰しています。

そのような事情もあってか、ウイスキーをインターネットなどで小分け販売するサービスが出てきています。

では、ウイスキーの小分け販売において、商標登録されたウイスキーの名称を小分けした瓶に表示する行為は商標権侵害に該当するのでしょうか。

本記事では、酒類販売業者に認められる小分け販売の商標権侵害の該当性について検討してみたいと思います。

 

量り売り」と「詰め替え」の違い

酒税法上、お酒の小分け販売には「量り売り」「詰め替え」の二つの方法があります。

量り売り

「量り売り」とは、酒類の購入者があらかじめ用意した容器に、購入者の希望する酒類を、希望する量だけ酒類販売業者が販売する行為をいい、販売する酒類の販売業免許を有していれば、手続き等は必要ありません。

国税庁ウェブサイト「お酒に関するQ&A(よくある質問)【詰め替え】」:https://www.nta.go.jp/taxes/sake/qa/07/35.htm

量り売りの場合、購入者が用意した容器を使用し、酒類販売業者が容器に商標を表示することはないと考えられるため、商標権侵害を問われることはないでしょう。

詰め替え

「詰め替え」とは、酒類販売業者等が仕入れた酒類をあらかじめ別の容器に小分け等して販売する行為をいいます。

酒類販売業者等が「詰め替え」を行う場合には、詰め替えを行う場所の所在地の所轄税務署長に詰め替えを行う2日前までに「酒類の詰替え届出書」により届出なければなりません。

この届出書には、届出者の氏名・名称、詰め替えする日、詰め替えする場所の所在地・名称、詰め替え後の容器、その品名・数量等を記載してください。

なお、この場合、詰め替え容器の見やすい個所に、その販売業者の住所・氏名又は名称、詰め替え場所の所在地、容器の容量,詰替え酒類の種類等を容易に認識できる方法で表示することになります。

さらに、詰め替えを行った者が,食品衛生法上からも、製造場所(詰め替え場所),製造者(詰め替えた酒類販売業者等の氏名又は名称)等の表示義務が必要となります。

国税庁ウェブサイト「お酒に関するQ&A(よくある質問)【詰め替え】」:https://www.nta.go.jp/taxes/sake/qa/07/35.htm

詰め替えの場合、酒類販売業者は、詰め替え容器に酒類の種類等を表示しなければならず、当然ながら商標登録されたウイスキーの名称を容器に表示することになります。

したがって、法的には他人の登録商標を使用する行為として、商標権侵害に該当する可能性があります。

 

小分け販売における商標権侵害の判断基準

この問題を検討するにあたり、小分け販売時の商標表示が商標権侵害に該当するかどうかに関する過去の事件を見てみます。

商標権侵害を認めた事例

オイル添加剤をドラム缶から小分けして販売した事件
(STP事件・大阪地裁 昭和51年8月4日決定)

この事件は、米国STP社のドラム缶入りのオイルトリートメントを小分けして販売する際に、同社のロゴマークを使用した缶を無断で製造し、その缶にオイルトリートメントを小分けして販売した行為について、商標権侵害の該当性が争われたものです。

裁判所はこの行為を商標権侵害に該当すると判断しました。

本件商標

  

肥料を大袋から小分けして販売した事件
(マグアンプK事件・大阪地裁 平成6年2月24日判決)

この事件は、大袋入りの肥料(名称「MAGAMP」)を小分けして販売する際に、小分けしたビニール小袋や陳列用ワゴン台に「マグアンプK」と表示した行為について、商標権侵害の該当性が争われたものです。

裁判所はこの行為を商標権侵害に該当すると判断しました。

この判断において裁判所は「小分けし詰め替え包装し直すことによって品質に変化を来すおそれ」があると述べています。

 

商標権侵害を否定した事例

個包装されたティーバッグを段ボールから小分けして販売した事件
(TWG事件・東京地裁 平成28年11月24日判決)

この事件は、個包装されたティーバッグ(名称「TWG」)が200個入れられている段ボールを複数輸入し(並行輸入)、そこから20個ずつ透明なビニール袋に小分けし、品名等を記載したシールを同袋に貼付して販売した行為について、商標権侵害の該当性が争われたものです。

裁判所は、この並行輸入や小分けの行為は、商標権侵害に該当しないと判断しました。

判決において裁判所は「被告商品は密封された包装袋内に茶葉が納められたものであって,被告はこれを段ボール箱から取出した上,20個ずつ透明な袋に入れたというにとどまり,被告商品それ自体には改変を加えていないから,その包装方法によって紅茶の品質が直ちに影響するとは考え難い。」と述べています。

判断基準

これまでの裁判例から、小分けによって商品の品質に変化が生じるかどうかが、小分け販売における商標権侵害の判断基準の一つになると考えられます。

つまり、本来の品質が小分けによって劣化する場合には、小分け後の商品に商標を表示する行為は、商標が有している品質保証機能を害する行為であるから商標権侵害に該当するという考えです。

 

ウイスキーの詰め替えにおける商標権侵害の可能性

上記の判断基準(本来の品質が小分けによって劣化するかどうか)を、ウイスキーの詰め替え作業について考えると、詰め替え作業では、確実に外気に触れるため品質劣化の可能性がないとは言えません。

この点から考えると、詰め替えした後の小瓶に商標を表示する行為は商標権侵害と評価されるかもしれません。

しかし、そうすると、酒税法上認められる詰め替えが、商標権の存在を理由に実質的にできなくなる事態も考えられます。

 

それでよいのでしょうか?

 

上記のとおり、酒税法では、詰め替えを行う2日前までに、届出者の氏名・名称、詰め替えする日、詰め替えする場所の所在地・名称、詰め替え後の容器、その品名・数量等を記載した「酒類の詰替え届出書」を所轄税務署長に提出する必要があります。

また、詰め替えた後の容器への表示に関して、「表示方法届出」も必要です。

さらに、所轄の保健所によっては食品衛生法上の届出も求められることもあるようです。

そうすると、これらの酒税法や食品衛生法の要件を遵守して詰め替えを行う限り、ウイスキーの品質は詰め替え前後で大差はないと評価できるのではないでしょうか。

そのため、現時点で確定的な裁判例はありませんが、私見としては、酒税法や食品衛生法で求められる届出を行った上で行う詰め替えについては、 商標登録されたウイスキーの名称を小分けした瓶に表示しても、品質保証機能を害することはないため、商標権侵害に該当しないと判断される可能性が十分にあると考えます。

この場合の小分けした瓶へのウイスキー名称の表示は、小分けされたウイスキーの銘柄を表示しているものであって、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない」(商標法26条1項6号)と考えます。

ただし、実際の商標権侵害事件では、商標の表示態様や販売形態なども判断要素に加わります。

ウイスキーメーカーが使用するロゴマークをそのまま使用した場合には、詰め替え品ではなく、メーカーが最初からボトリングしたものだと理解される可能性があるため、商標権侵害に該当するとの判断に傾くおそれがあるでしょう。

また、言うまでもありませんが、酒税法の要件を遵守せずに詰め替えられたウイスキーの小瓶に、商標登録されたウイスキーの名称を表示する行為は商標権侵害に該当するでしょう。

さいごに

ウイスキーの小分け販売において、商標登録された名称を小分けした瓶に表示する行為は、商標法の商標の使用の定義に当てはめると、商標権侵害に該当しそうです。

ただ、上述したとおり、詰め替え行為が酒税法で許容されていることや、品質の維持が酒税法等によって担保される側面を考慮すれば、「商標権侵害に該当しない」と言える可能性は十分にあります。

ウイスキーの小分け販売を検討している酒類販売業者の方は、酒税法や食品衛生法の要件を確認し、適切な手続きを踏むことが重要です。

また、商標権侵害の懸念がある場合には、商標を専門とする弁理士のアドバイスを受けることをお勧めします。

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