特許行政年次報告書2023年版の発行

特許庁は、毎年、知的財産をめぐる国内外の動向(統計情報)と特許庁の取組について、特許行政年次報告書を発行し、公表しています。

2023年版の年次報告書が先日発行されました。

2023年版は2022年の統計が掲載されている報告書になります。

今日はそこから商標の動向について気付いた点をお伝えします。

 

2022年の日本の出願件数と登録件数

2022年の商標出願件数は170,275件、登録件数は183,804件でした。

※登録件数が多いのは出願と審査のタイムラグにより、2021年以前に出願された案件の審査分も含まれるためです。

 

2021年の出願件数が184,631件、登録件数が174,098件だったので、2022年は前年対比で出願件数が14,000件ほど減った一方で、登録件数は9,000件ほど増加しました。

出願件数と登録件数(特許行政年次報告書の統計情報を基に作成)

このグラフを見てわかるのは、これまで毎年、登録件数は出願件数よりも少なかったのですが、2022年はそれが逆転して登録件数が多くなり、18万件を上回ったことです。

この背景には、出願件数が若干減ったことと、ここ数年の審査待ち案件の処理が一昨年くらいから促進され、登録件数が多くなったことにあると考えます。

 

審査期間の短縮

特許庁では、出願から、審査官による審査結果の最初の通知までの期間の平均をファーストアクション(FA)期間として統計を取っており、審査のスピードの指標として用いられています。

そして、FA期間はこの3年間で以下のようになっており、2022年は6ヶ月を切るスピードで審査がなされています

FA期間の過去3年の推移

2017年頃までは、概ね5~6ヵ月程度で審査結果が届いていたのですが、だんだんと審査が遅くなり、2019年~2020年の頃は、出願してから1年も審査結果を待つ案件もありました。

その頃から特許庁でも審査期間の長期化は問題視され、早期審査の活用を促したり、ファストトラック審査の導入など、案件ごとに審査スピードを速める手段を提供するに至っておりました。

一方で、全体の審査スピードの改善は2021年頃からみられるようになり、最近ではほとんどの案件で5~7ヶ月程度で審査結果が届くようになりました。

なお、審査期間の短縮に伴い、特定の指定商品役務の記載を選択することで審査期間を短縮する「ファストトラック審査」は2023年3月末をもって休止することになりました。

審査期間の短縮は、出願人側にとっては採択予定の商標の使用の安全を早期に確定しやすくなるので、良い傾向だと思います。

 

立体商標の登録件数の増加

いわゆる非伝統的商標と呼ばれる新しいタイプの商標(立体、音、動き、位置、色彩、ホログラム)については、立体商標を除いて、年間の出願件数はいずれも100件に満たない状況です。

非伝統的商標の出願・登録件数

一方で、立体商標については、出願件数は2年連続で300件を上回り(2021年は337件)、登録件数は初めて200件を超えました。

立体形状のみからなる商標は識別力が問題になることが多いため、識別力ある図形や文字を伴った立体形状として出願されることが多いものの、カシオのG-SHOCKの立体商標のように、立体形状のみからなる商標の登録も増えてきており、企業の商品ブランドを守る有力な手段として定着してきています。

自社商品の立体形状について商標権を確保できれば、半永久的に商品形状を保護できるため、知財制度上最強の権利と言えるかもしれません。

 

拒絶査定不服審判

2022年は、拒絶査定不服審判の請求件数が1500件を上回り、例年よりも多くなっています。

拒絶査定不服審判の統計

最近の審査の傾向として、以前は審査段階で登録が認められていたような商標でも拒絶査定になるケースが増えていると感じています。

そのようなケースが拒絶査定不服審判に持ち込まれているのだと考えます。

また、最終処分件数に占める請求成立の割合(登録審決の割合)をみると、2022年は70%を下回っており、特許庁の審査・審判の傾向として、若干判断が厳しくなっているのかもしれません。

商標の採択時や出願時には、このような審査・審判の傾向も考慮して進める必要があります

 

国際出願(マドプロ出願)の動向

日本から外国に出願するマドプロ出願については、2018年以降の統計では毎年3,000件を少し上回る件数で安定しています。

指定国数の平均は、若干の増加傾向があり、2022年は6.8ヵ国でした。

マドプロ出願の状況

マドプロ出願は、特に外国出願時の初期費用を抑えることができるため、外国での商標権取得の際には、たとえ指定国が少なくても利用するメリットはあります。

ただ、各指定国での審査で拒絶された場合にはその応答のために現地代理人を選任する必要があり、拒絶理由が通知された段階で、その指定国で対応できるかどうかも事前に検討してから出願する必要があります。

そのため、加盟国の増加などによってマドプロ出願の利便性が高まった今日でも、案件に応じた出願方法の検討・選択は重要だと思います。

 

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