意匠出願の図面要件の緩和
意匠とは、物品の外観デザインのことです。
そして、意匠権は、物品の外観デザインを保護するための権利です。
特許庁に意匠出願することで意匠権を取得できます。
特許権や商標権などの他の知的財産権に比べて、意匠の出願件数は少ないものの、うまく使えば、自社製品を模倣から守る強い権利になります。
その意匠出願の図面の記載要件が2019年5月から緩和されました。
今日はその概要をお伝えします。
緩和された点
以下の点において、緩和されました。
- 必須図面の要件
- 意匠権を取ろうとする物品以外のものの記載
- 中間省略の記載方法
これらを順にみていきましょう。
必須図面の要件
まず、意匠出願の手続きには、「六面図」と呼ばれる”一組の図面”を提出しなければなりませんでした。
六面図は、「正面図」「背面図」「平面図」「底面図」「右側面図」「左側面図」から構成されます。
左右対称であることなどの例外的な理由を除いて、省略することはできませんでした。
しかし、権利を要求しない部分のみが現れる部分についても図面を作成しなければならない手間がありました。
そこで、この度の要件緩和により、意匠権を主張しない部分のみが現れる図面については省略できることになりました。
特許庁の意匠審査基準では、以下の例を挙げています。
この例では額縁の背面については権利を主張していないものとして取り扱われます。
実務上留意が必要な点としては、図面に描かれていない面は、権利主張が一切認められなくなる点です。
六面図を構成する図面を一つでも省略する際には、本当に省略しても良いのか十分に検討しないといけません。
意匠権を取ろうとする物品以外のものの記載
これまで、意匠出願の図面や写真には、意匠権を取ろうとする物品以外のものを記載してはいけませんでした。
そのため、布地から作られる製品のように、自然には立体的な形状を保たない物品は、下のような写真で意匠出願されることがありました。
ただ、上記のような身に着ける物品は、身に着けた状態のデザインが本来的には保護したいと考えるのが通常だと思います。
そこで、着用状態のデザインを表現するためにトルソー(胴体の人形)に着用させた写真を提出することはありました。
しかし、それはあくまでも”参考図”としてのみ提出が認められていました。
もちろん、従来から、着用状態の形態を表した写真(トルソーが見えない写真)を撮って、場合によっては写真を編集加工して、提出することも行われていましたが、時間と費用が掛かります。
一方で、欧州の意匠制度においては、従来から着用状態がわかるような写真で意匠出願することが可能でした。
このような状況で、今回の要件の緩和により、意匠権を取ろうとする物品以外のものを記載することが可能になりました。
そのため、上記の欧州意匠のようにトルソーを使用した着用状態の写真で意匠出願することができます。
今回の要件の緩和により、使用状態で視認される物品のデザインを表した意匠出願が促進されるように思います。
意匠出願における写真の活用が容易になり、意匠出願がしやすくなるでしょう。
中間省略の記載方法
従来から電源コードや建材などの長いものは、中間部分を省略して図面を記載することができました。
ただ、その図面での表し方が限定されていて、かつ、省略箇所の図面上の寸法を記載しなければなりませんでした。
今回の緩和により、省略方法の表現が任意の方法で明確にできればよく、また、省略箇所の寸法の記載も不要になりました。
特許庁の意匠審査基準では、以下の例を挙げています。
省略箇所の寸法の記載は、同じ製品でも大きさのバリエーションで変わることがあり、あまり意味がないと思っていましたので、この緩和には大いに納得です。
さいごに
この度の図面要件の緩和により、意匠出願における図面作成の自由度が高まり、結果として、その手間・コストの低減が期待できます。
これにより、意匠制度活用の促進が期待されます。
来年には、意匠法の大きな改正も予定されており、意匠の活用が企業活動とより密接になってくると思われます。
権利主張ができないというのはどういう意味かご教示いただけませんでしょうか。
類否判断の際に省略した図面の部分が考慮されないという意味でしょうか。そうであれば、むしろ全体よりも一部分だけで類否判断となるので、権利侵害と判断されやすくなり、権利者にとって有利になると理解しておりますが、正しいでしょうか。
それとも、権利者にとって不利になること(例えば損害賠償額等の損害額の算定などの際に不利になるなど)があるのでしょうか。
ありがとうございます。
省略した図面(例では背面図)については、従来、部分意匠として点線等で表していた「意匠登録を受けようとする部分以外の部分」に該当することになります。そのため、実際の製品同士の対比において省略した面が類似していても、意匠権としての評価は「意匠登録を受けようとする部分以外の部分」として、当該省略した面に基づく権利主張が認められなくなるということを伝えたかったのです。