「断捨離」使っちゃいけないの?

最近、「断捨離」という言葉が商標登録されていて、「警告を受けた!」、「商標利用できない!」等と話題になっています。

そこで今回は、「断捨離」の言葉が本当に使えないのか専門家である弁理士の視点から検討したいと思います。

※本記事は、2019年6月11日に公開され、2021年12月2日に一部内容を更新したものです。

「断捨離」の商標登録

断捨離という片付け方法を世に広めた山下英子氏による「断捨離」の商標登録/商標出願は次の7件です。

商標「断捨離」の登録状況(2021年11月30日時点)

同じ「断捨離」の言葉だけで7件もあります。

なぜ7件もあるかというと、上記一覧表の一番右列の「区分」が異なるためです(※正確には、区分で指定している商品・サービスが異なるためです)。

なお、6番目の商標は、他人の登録商標の存在を理由に、特許庁の審査で拒絶され、登録が認められずに終わっています。

商標権は言葉を独占するものなの?

商標とは、法律上の定義はさておき、簡単にいうと「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」のことです。

本ブログの記事「ブログ名を商標登録するための基礎知識~その3~」でも触れましたが、商標権は、商標登録で指定した商品やサービスの範囲で、その登録した文字や図形等を、「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」として、独占使用できる権利です。

商標の権利範囲は、登録された商標と、その登録で指定された商品やサービスとのセットで決まってきます。

例を挙げると、ビールの商標「ASAHI」(アサヒビールの権利)は、自転車小売業の商標「ASAHI」(サイクルベースあさひの権利)には及びません。

アサヒビールとサイクルベースあさひ
アサヒビールとサイクルベースあさひ

また、「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」として使われていない場合にも商標権は及びません。

例えば、インクジェットプリンターの互換インクを販売する際に「エプソン用」と表記する行為は、用途を示すだけなので、エプソンが保有している商標「エプソン」を侵害しません。

用途表示として商標権が及ばない例
用途表示として商標権が及ばない例

そのため、商標権は、あらゆる媒体などでの使用が禁止されてしまうような言葉をすべからく独占するような権利ではないのです。

YouTubeやブログで「断捨離」は使えないのか?

関連しそうな権利はどれ?

それでは具体的に検討します。

まず、上記の6件の商標登録/商標出願のうち、YouTubeやブログでの「断捨離」の使用を阻止できそうな商標権はどれでしょうか。

「1.登録第4787094号」だと思います

それは、指定しているサービスの中に「技芸・スポーツ又は知識の教授」や「セミナーの企画・運営又は開催」、「電子出版物の提供」が入っており、”片付け”に関する指導や情報の提供に関連しそうなためです。

結局使えるの使えないの?

指定商品・サービスとの関係

繰り返しになりますが、商標の権利範囲は、登録された商標と、その登録で指定された商品やサービスとのセットで決まります。

では、YouTubeやブログはどんなサービスなのでしょうか。

従来は講師と受講者が同じ場所にいて提供されるサービスをウェブシステムを用いて遠隔地で行われることも当たり前になりました。

そして、YouTubeは動画配信のプラットフォームですが、そこに登録して動画を配信する個人は、YouTubeで”知識の教授”や”セミナーの開催”を行っているとも評価できるわけです。

また、本ブログの記事「ブログ名を商標登録するための基礎知識~その5~」で触れましたが、ブログは「文字情報の提供」として捉えることができ、「電子出版物の提供」に類似するサービスと考えることもできます。

ということは、YouTubeやブログで片づけに関する知識を伝えることは、上記の「断捨離」の商標権の指定サービス「技芸・スポーツ又は知識の教授」や「セミナーの企画・運営又は開催」、「電子出版物の提供」と同一又は類似する範囲の行為になる可能性は十分にあります。

商標として使っているのか

なんだか「断捨離」を使っちゃいけないんじゃ・・・という雰囲気になってきましたが、まだ諦めるのは早いです。

次に、他人が商標権を取得した言葉であっても、「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」として使われていない場合には商標権は及びません。

YouTubeやブログで「断捨離」という言葉を記載する行為が「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」として使われていなければ、問題ない行為なのです。

そして、「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」として使われていない行為の典型は、単に内容を表示するにとどまるような行為です。

よく言われるのが、書籍の題号です。

書籍の題号は、通常、その書籍の内容を端的に表したものであって、「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」として用いられているものではありません。

実際に、書籍の題号が「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」として用いられているものではないと判断が下された裁判例がいくつかあります。

「断捨離」=『執着を捨てることを旨とする片づけ術』程度の認識が世間一般にあり、YouTubeの動画やブログ記事のタイトルや中身に「断捨離」という言葉を用いても、その内容を表したものであると客観的に理解できる状況であれば、「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」として用いられているものではないと言えます。

特許庁の商標取消審判での判断ですが、『「断捨離」の語は、2010年にユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされていた事実からすれば、その当時から、「執着を捨てることを旨とする片づけ術の標語。断つ、捨てる、離れる。」ほどの意味合いを表す語として、一般的に通用する語として使用されているとみるのが相当』と判断された事案がありました(取消2016-300860)。

これは特許庁審判での判断であり、裁判所の判断ではないので、これをそのまま鵜のみにして「断捨離」使ってもオッケーとは言い切れませんが、十分に参考になる言及だと思います。

個人的には、YouTubeの動画やブログ記事のタイトルや中身での「断捨離」の使用(タイトルでの「断捨離」の使用は、特にタイトルの一部として用いる場合) は、通常はその内容を表したもので、「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」として用いられているものではないと思います。

どういう場合に侵害になるのか

では、「断捨離」の商標権は全く意味をなさないのでしょうか?

そんなことはないと思います。

「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」として使われている場合には商標権が及びます。

そして、YouTubeやブログで 「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」 は何かというと、チャンネル登録名やブログ自体の名前(ブログ名)です。

チャンネル登録名やブログ名でYouTubeやブログの出所(誰が提供しているものか)を区別したり、その信用性を認識することがあると思います。

それこそが「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」として機能している証拠だと思います。

そうすると、チャンネル登録名やブログ自体の名前(ブログ名)に単に「断捨離」と記載したら、それは記事の中身ではなく、「誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印」として用いられていると判断される可能性が十分にあると思います。

まとめ

やや強引ですが、「断捨離」が内容表示であると明らかに理解できる形で個々のYouTubeの動画やブログ記事のタイトル(題号)や中身に用いるのはOK。

一方、チャンネル登録名やブログ自体の名前に用いたら危ない、という一応の線引きはできると思います。

もちろん、これは私の考えに基づく線引きで、侵害事件は事案ごとに判断されますので、個々の動画のタイトルでもアウトになる可能性がゼロというわけではありません。

また、権利者(又は権利者の代理人)から連絡を受けないことや、裁判での勝算を保証するものではありませんのでご了承ください。

でも、多くの人がおかしいと思っている、その直感は間違っていないと思います。

権利者から連絡を受けて裁判になったらそれだけで、コストが発生してしまうのも事実です。

しかし、権利者から連絡を受けたからといって、すぐに動画の修正してしまう前に、ちょっと検討して、必要があれば専門家や相手方に意見を求めて、きっちり解決する対応も必要だと思います。

そして、それをネタに動画を作ったりブログ書いたりするのもありかと思います。

もはやYouTubeやブログの世界でも商標権侵害に気を付けないといけない時代になりました。

ブログ名に関する商標登録の可能性については、この記事で度々登場した「ブログ名を商標登録するための基礎知識」をぜひご覧ください。

動画のご紹介

2021年11月に、テレビ番組での芸能人の発言のテロップに「断捨離Ⓡ」と表示されたことが話題になりました。

これを受けて、改めて「断捨離」の商標権の効力範囲について動画で解説しました。

よろしければご覧ください!

 

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