身近に潜む「Ⓡ」の意味
商品のパッケージや看板などを見たときに、小さくⓇが記載されているのを見たことがある人も多いと思います。
何かしらの権利がありそうな表示であるこの「Ⓡ」、何なのでしょうか。
今日は、Ⓡの意味とその使い方をご紹介します。
Ⓡの意味
Ⓡは、「登録商標」(Registered Trademark)を意味しています。
つまり、商標権が発生しているマークであることを端的に示すものです。
例えば、以下のような使用例があります(赤丸部分)。
商標の隅っこに小さく表示するのが一般的です。
ただ、日本の商標法には、「登録商標にはⓇを付けるべし」といった規定はありません。
あるのは、次のような規定です。
商標権者…(略)…は、経済産業省令で定めるところにより、指定商品若しくは指定商品の包装若しくは指定役務の提供の用に供する物に登録商標を付するとき、又は指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該指定役務の提供に係る物に登録商標を付するときは、その商標にその商標が登録商標である旨の表示(以下「商標登録表示」という。)を付するように努めなければならない。
商標法 第73条
「~なければならない。」と強めの規定と思いきや、その前の言葉が「努める」という動詞なので、『務めた(努力した)けどできませんでした。』は許されるのです。
ちなみに、「経済産業省令で定めるところ」とは、次の規定です。
商標法第七十三条の商標登録表示は、「登録商標」の文字及びその登録番号又は国際登録の番号とする。
商標法施行規則 第17条
つまり、日本の商標法的には「登録商標第12345号」といった表示が商標登録表示として法定されているのです。
ってことは、Ⓡは商標登録表示ではない、ということになりそうですが、これはアメリカの商標法に規定された表示方法で、その表示の仕方が日本でも広まったものと考えられます。
Ⓡが「登録商標」を指し示すものとして日本でも広く受け入れられている状況なので、事実上は商標登録表示と同じように使用されています。
間違ってⓇを使ったらどうなるのか?
それでは、このⓇを本来使うべきではない方法で使ったらどうなるのでしょうか。
その場合、商標法には虚偽表示を禁ずる規定があり、登録商標以外の商標にⓇを付けた場合や、指定商品・役務以外の商品・役務に使う商標にⓇを付けた場合には、虚偽表示の規定に違反することになるでしょう。
何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 登録商標以外の商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為
二 指定商品又は指定役務以外の商品又は役務について登録商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為
商標法 第74条1号
法律上は「商標登録表示」ではありませんが、少なくとも上記規定の「これと紛らわしい表示」に該当すると考えられます。
ちなみに、規定上の罰則は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金です。
Ⓡを表示しなかったらどうなるの?
登録商標を使うときに「登録商標」という言葉やⓇを使う義務はありません。
そして、日本においては、表示しないから商標権の効力が弱くなるといった差別的な取り扱いはされません。(※アメリカ等の外国では、損害賠償請求時に不利な扱いがされることがあります。)
なので、日本では、表示の必要性についてはあんまり気にしなくてOK!
Ⓡを表示しなくても問題なしです。
じゃあ、何でⓇを使うの?
「登録商標」の文字やⓇを使う義務がない上、不利益もないのなら、なぜⓇを使うのでしょうか。
パッケージ等のデザインには余計な文字や記号は入れたくないはずです。
と考えると、そこにはやはり、商標を登録した権利者(商標権者)の狙いがあるのだと思います。
例えば、商標(他人の商品と区別・識別するためのマーク)として認識されにくい名称が登録された場合に、『登録商標ですよ。権利がありますよ。』とアピールするために表示するのは効果的だと思います。
例えば、前掲の「六条麦茶」
「六条麦茶」は、「六条大麦を使用した麦茶」であることを示す一般的な名称のように認識される言葉です。
でも、「六条麦茶」という言葉は登録されています(商標登録第4105669号)。
審査で拒絶されたものの、長年の使用によって消費者に出願人の商品の商標として知られていたことが認められて登録されました。
こういった、商標として認識されにくい名称が登録された場合に、Ⓡを使って名称に権利があることを消費者や業界の人にわかるように示すことができます。
このようなⓇの使い方は、同業者が不用意に同じ言葉を使ってしまったり、商標の普通名称化を防ぐ効果を期待できるので、商標権の管理上有益だと思います。
商標が登録されていない場合は?
商標登録されていない文字にⓇを使ってはいけません。
前掲のとおり、虚偽表示になってしまいます。
が、どうしても「うちの商標だ!」と訴えかけたい場合はどうすればよいでしょうか。
その場合には、Trade Markの頭文字「TM」を使いましょう。
「TM」は、商標登録の有無にかかわらず使用できるので、商標出願中の段階からでも、自社の商標であることを周りに訴えることができます。
もちろん「TM」を使うことは、「うちの商標だ!」と自分で言っている以上の意味合いはありませんので、第三者の行為を禁止したり、他人の商標登録を阻止するような効果はありません。
さいごに
Ⓡが付いているということは、何らかの商標の権利が存在し、かつ、権利者が商標として意識していることを示しています。
同業者であれば同様なネーミングの採用は避けるべきですが、Ⓡの使い方によっては、どこまでが登録された商標なのか?と疑問に思うこともあります。
例えば、前掲の「割烹白だし」では、「白だし」は”だし”の種類を表すため、本当に登録商標なの?と疑問に思います。
そういうときは、商標登録の範囲を調べて、権利範囲を理解して対処するのが良いでしょう。
「割烹白だし」の例では、図形部分「¬」や「割烹」「白だし」の文字も含めた商標登録でした。
ぜひ、身の回りにパッケージデザインや看板に潜むⓇや「TM」を探して、登録商標を身近に感じみてください。