紅茶ブランドに「BOSS」を使えた訳
2月25日、サントリーは、これまでコーヒー飲料のブランドとして位置付けてきた「BOSS」のラインナップに紅茶を加えることを発表しました。
飲料各社は、コーヒーのブランドと紅茶のブランドを明確に分けて販売しているのが通常です。
例えば、キリンでは、紅茶は「午後の紅茶」で展開し、コーヒーは「FIRE(ファイア)」で展開しています。
サントリーも、紅茶は「リプトン」で展開し、コーヒーは「BOSS」で展開していました。
それがここにきて「BOSS」ブランドに紅茶を加えるというのです。
今日はこれを商標権の観点から見てみたいと思います。
「BOSS」の商標登録
まず、サントリーの「BOSS」に関連する商標登録の一部を抽出してみました。
商標 | 第30類の指定商品 | 登録番号 |
茶,コーヒー,ココア,氷 | 第2656927 号 | |
茶,コーヒー,ココア,氷・・・など | 第5956209号 | |
茶,コーヒー,ココア,氷,コーヒー豆 | 第6098629号 |
注目は、中央の列「第30類の指定商品」です。
”指定商品”とは、商標を使用する対象物として、商標出願の時に指定した商品のことです。
「BOSS」はコーヒーのブランドなので”コーヒー”が入っています。
そして、加えて”茶”もあります。
そうです!
サントリーは、「茶」の分野にもBOSSを使うことを予定していたのです!
というのはうそです。
日本の商標出願の実務では、実際に使用する商品と、それに関連しそうな商品も指定して出願するのがよく行われています。
そのため、「BOSS」を使用する対象がコーヒーだったとしても、サントリーは、同じ飲料分野の”茶”や”ココア”も指定商品に含ませていたのでしょう。
新製品の名称決定におけるリスク回避
ところで、新製品の名称決定においては、他社の商標権に抵触しないように名称を決定する必要があります。
特に、サントリーほどの事業規模の会社になると、その販売量や販促費用も大きくなるため、ここで他社の商標権を踏んでしまうようなことがあると、製品回収、パッケージ差し替え、広告作り直しなど、大きな出費になってしまいます。
しかし、この問題は「BOSS」を採用することで、うまいことリスク回避できます。
つまり、上記の商標登録の”第30類の指定商品”には「茶」が入っています。
”茶”には”紅茶”が含まれるので、「BOSS」は、すでに「紅茶」について商標権を保有している(=他社は商標権を保有していない)、ということなのです。
そのため、紅茶飲料に「BOSS」を使用しても問題がなかったのです。
登録商標を使用していないとどうなるか
なお、指定商品をたくさん書けば、いろいろな商品について商標を独占できます。
しかし、商標は使ってこそ価値があるもの。
使っていない商標は信用が付かないので、保護に値しません。
そのため、商標登録から3年間商標を使用していないときは、誰でも特許庁に対して、「あの使ってない商標を取り消してくれ」と請求することができます(不使用取消審判)。
サントリーは、今回の紅茶の販売により、これまで不使用状態だった商品「茶」について、不使用による取消のリスクも回避したのです。
個人的な心配事
このように、サントリーは、新製品の発売にあたって、飲料分野で知名度のあるブランド「BOSS」を、 他社商標権の侵害リスクなく、採用することができたのです。
あとは、私の勝手な心配ですが、『コーヒーだと思って「BOSS」を買ったら紅茶だった』というような誤認が起こらないことを祈るばかり。
味付きの透明飲料もある時代なので、『随分と色の薄いコーヒーだなぁ』なんて思いながら間違って買う人がいないとも限りません。
紅茶でブランド価値を落とすようなことにならなければいいのですが・・・。