意匠権と商標権の戦略的な使い分け

意匠権と商標権

2月16日付けの日本経済新聞に、意匠法改正に関し、以下のような記述がありました。

自動車や家電では、一連の商品で統一したデザインを使い、ブランドとしての価値を構築する動きが広がっている。「らしさ」ともいえるこうしたデザインも、独創性を認められれば意匠になる。

2019年2月16日 日本経済新聞

ブランドを守るのは商標権ではないのか、と思った方は鋭いと思います。

そこで今回は、意匠権と商標権の使い分けについて簡単にご紹介します。

意匠権とは

意匠とは、製品のデザイン(形状や模様)のことです。

そして、意匠権とは、製品のデザインを独占できる権利です。

車や電化製品、食器、玩具、衣服など、あらゆる工業製品が意匠権の対象になります。

ただし、製品(意匠法上は”物品”といいます)のデザインであることが必要なため、製品から離れた図形のみは保護対象にはなりません。

また、製品に関連する画面のデザインは保護対象にはなりますが、ウェブサイトのデザインは、現時点では保護対象から外れています。

商標権とは

商標とは、「ブログ名を商標登録するための基礎知識」でも述べたとおり、”誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印”のことです。

商標権は、商標登録の対象とした商品やサービスについて、そのような”目印”を独占するための権利です。

商標として登録できる対象は、文字、図形、記号、立体的形状のほか、音、色彩、位置*、動き(動画)、ホログラムも対象になっています。

*位置の商標とは、図形等を商品等に付す位置が特定される商標のこと

例えば、日清のカップヌードルの側面には、上下に金色の帯型の図形があしらわれており、この位置に、帯型図形を配置したことが商標として認められています。

カップヌードル位置商標

 商標登録6034112号

意匠権と商標権の対象は重複する

商標権の対象に、立体的形状や色彩、位置など、商品の外観に関する要素が含まれていることから、意匠権の対象である製品デザインと必然的に重なる部分があります。

そのため、上述の日本経済新聞では、”・・・デザインを使い、ブランドとしての価値を構築する動きが広がっている。「らしさ」ともいえるこうしたデザインも、独創性を認められれば意匠になる。”と述べ、意匠によるブランド保護について言及しているのです。

「アップルっぽい」とか「スターバックスっぽい」などの”らしさ”は、商標(=誰の商品やサービスかを区別・識別するための目印)に似た効果があり、その要素を意匠として保護する戦略です。

意匠権と商標権、どっち?

では、意匠権と商標権、どのように権利取得を使い分けたらいいのでしょうか。

商標権を取得するケース

自社の商品やサービスを他社の商品やサービスと区別・識別するために付けた目印であれば、商標法で保護すべきです。

意匠権を取得するケース

一方で、製品デザインであれば意匠で保護するのが良いでしょう。

商標と意匠の狭間!?の問題

・・・と、簡単に割り切れればいいのですが、自分では”商品やサービスを区別・識別するために付けた目印”だと思っていても、商標法で保護できない場合があります。

それは、立体的形状のみの商標や色彩商標、ありふれた図形を用いた位置商標を保護したい場合です。

これらの商標は、通常は、商品のデザインとして取り入れられ、識別標識としては機能しづらいものです。

そのため、商標として登録するには、その立体的形状や色彩等が使用された結果、識別標識として認識されていることを証明しなければなりません。

それゆえ、登録までのハードルが高く、商標権を取得するまでには相当な時間がかかるのが通常です。

そして、商標登録を得られる前は、法的な保護がないため、他社の似たデザインを止めることができなくなってしまいます。

商標権取得前の意匠権の活用

そういう時に活用できるのが、意匠権です。

商標権の取得が難しいデザイン的な要素について、まずは意匠権を取得しておき、後に商標権を取得する戦略です。

一つ良い事例があります。

ニコンは、一眼レフカメラの持ち手部分の赤いラインについて、最近(2019年2月1日)、以下の「位置商標」の登録を得ました。

一眼レフカメラを使用している人ならご存知の方も多いと思います。ニコンのカメラのグリップの人差し指が当たる部分には、赤いラインが施されています。

ニコン位置商標
商標登録6118238号

実はこの赤いラインの位置商標には伏線があり、以下の意匠が2003年に登録されています。

ニコンの意匠
意匠登録第1193823号

ニコンは、この意匠の他に、同様の逆三角形の形態について関連する意匠を10以上権利化していました。

当時からニコンの一眼レフカメラには、赤い逆三角形のラインが施されており、そこを見ただけでニコンのカメラと認識することができる状況だったと思います。

ただ、このような逆三角形は、ありふれた図形と言え、簡単には商標権を得ることはできません。

そのため、ニコンはデザイン的な要素として意匠登録をしておいたのではないでしょうか。

上記の意匠権は2018年に権利が切れたのですが、位置商標の制度が導入されて、ニコンが上記の位置商標の出願をしたのが、それに先立つ2015年です。

そこから3年以上の時間をかけて審査が終わり、ようやく位置商標の登録が認められたわけです。

つまり、意匠権で独占的にデザインを使用しつつ、意匠権が切れるタイミングで、半永久的に権利の更新が可能な商標権に乗り換えることに成功したのです。

最初から商標権を取得できないようなデザインの場合にはこの戦略は有効です。

意匠権と商標権をうまく活用したブランド保護の好事例です。

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