外国での商標権の取得手続き~国際登録制度~

先日、「海外ビジネスを成功させようと思ったら商標権を取得すべし」と題して、海外ビジネスには商標権が必須アイテムであることをお伝えしました。

商標権は、基本的に、国ごとに発生し、その国においてのみ効力を有します。

海外で、商標の権利を主張したい場合には、その国で有効な商標権を取得しなければなりません。

今日は、前回の「各国への直接出願」に引き続き、「国際登録」の手続きについて解説します。

国際登録制度とは

商標の国際登録制度とは、マドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録のことを指します。

一般的には、英語表現で「マドリッドプロトコル」と呼ばれたり、その省略形の「マドプロ」と呼ばれたりします。

日本で登録されている自社の商標を、世界知的所有権機関(通称「WIPO」)という国際機関が管理する国際登録簿に登録をして、指定した加盟国での商標の保護を求めることができる制度です。

下の図のように、複数の外国への商標出願の手続を、日本国特許庁を通じた国際事務局(WIPO)への国際登録で一度に完了させることができるため、効率的に外国での商標権の取得ができる制度です。

2020年2月の時点で、マドリッド協定議定書には、106の国・地域が加盟しています。

アメリカや欧州共同体、中国など主要な国は加盟しています。

国際登録の手続き

以下に、手続きの概要を順に説明します。

前提

国際登録を進める前提として、日本での基礎となる商標出願又は商標登録が必要です。

国際登録は、自分の国で登録した商標の保護を外国にも及ぶようにする制度のため、日本人又は日本の企業は、まず、日本での商標出願又は商標登録が必要です。

(第一関門)日本国特許庁

国際登録の出願書類は、日本の特許庁に提出しなければなりません。

なぜかというと、国際登録は、自分の国で登録した商標の保護を外国にも及ぶようにする制度のため、日本国特許庁が、国際登録の出願範囲が、基礎となった日本の商標出願や商標登録の内容と一致するかどうかを判断するためです。

国際登録の出願範囲が基礎の範囲を超えていると、特許庁から修正を求められます。

(第二関門)国際事務局(WIPO)

日本国特許庁が、国際出願の出願書類の内容を確認して、基礎となった日本の商標出願や商標登録の内容と一致することを確認すると、出願書類が国際事務局(WIPO)に送付されます。

国際事務局では、主に指定商品・指定サービスの内容が適切かどうか審査します

問題がある場合には、国際事務局から出願人に対して、指定商品・指定サービスの記載の修正を促す通知が送られます。

審査で問題がない場合や、国際事務局からの通知に対して適切に対応すれば、国際登録がされます。

ただ、この時点で、各国での商標の保護が確定したわけではありません!

商標の登録要件の審査は、国際登録の後に各国でそれぞれ行われるため、国際登録がされても、指定した加盟国での商標の保護が自動的に与えられるわけではないのです。

登録証が発行されても油断してはいけません。

(第三関門)各国特許庁

国際登録がなされると、出願の時に指定した国や地域の特許庁(知的財産庁)に、国際登録でその国・地域が指定されていることが通知されます(指定の通報)。

ようやく、指定した国・地域での審査がはじまります。

各国・地域では、国際登録の内容について、自分の国・地域の法律に従って審査をし、不備があれば拒絶理由を通知します。

もし拒絶理由が通知された場合は、その国の代理人を選任して、各国・地域の特許庁に応答手続きを行う必要があります。

そして、無事に審査が完了して、指定した国・地域での商標の保護の要件をクリアすると、保護認容声明という声明文が出されて、その国・地域での商標の保護が確定します。

直接出願との比較

直接出願と比較すると、以下のメリット・デメリットが挙げられるでしょう。

メリット

・初期費用を抑えられる

最初の段階で各国・地域の代理人を選任する必要がないので、直接出願に比べて初期費用を抑えることができます。

・一度の手続きで済む

マドリッド協定議定書に加盟している国に対して、一度の出願手続きで、出願を完了させることができます。

また、権利の管理も一元的に済ませることができます。

デメリット

・出願の内容に制約がある

直接出願だと、事前に各国の審査実務に応じた出願内容の調節ができますが、マドリッド協定議定書による国際登録では、基礎となる商標出願・商標登録の範囲内という制約と、国際ルールの枠組みの中で指定商品・指定サービスを記載しなければならない制約があります。

・国際登録が取り消される可能性

基礎となる商標出願・商標登録が、国際登録から5年以内に消滅した場合、国際登録も取り消されてしまいます。

そのため、基礎となる商標出願が拒絶された場合などは、国際登録もなくなってしまうリスクがあります。

さいごに

国際登録による手続きは、一見簡単そうに見えますが、商標権を取得しようとする国や地域の制度も把握して進めなければ、自社の商標を十分に守ることができない場合もあります。

手続上のメリットは大きいですが、そのあたりのことも含めて、直接出願するか、マドリッド協定議定書による国際登録をするか選択する必要があると思います。

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