国際登録制度を利用した外国におけるネーミング独占の留意点(2)
海外ビジネスの成功のためには、製品やサービスのネーミングの独占権(商標権)が必須アイテムです。
なぜ必須アイテムなのか、ご興味ある方は、本ブログの「海外ビジネスを成功させようと思ったら商標権を取得すべし」をご覧ください。
前回から、国際登録制度を利用するにあたっての留意点をお伝えしています。
前回は、「国際登録の手続きに着手する前の必須事項」として、基礎出願・基礎登録についての留意点をお伝えしました。
今回から、国際登録の手続き段階での留意点をお伝えします。
国際登録出願の手続きの流れ
まず、国際登録の手続き(国際登録出願)は、所定の出願フォーム(願書)に必要事項を記入し、それを提出することで行います。
国際登録出願の流れは、下の図のように、出願人が日本国特許庁に出願書類を提出し、その書類が国際事務局(WIPO)に送られ、さらに各国特許庁に連絡がなされることによって進みます。
各国特許庁に連絡が届くまで、日本国特許庁と国際事務局を経由するのですが、これらの二つの機関は単に書類を横流しするだけではなく、内容のチェックをします。
つまり、国際登録出願では、最終関門である各国特許庁での審査の前に、
- 日本国特許庁でのチェック
- 国際事務局(WIPO)でのチェック
という、2つの関門があるのです。
日本国特許庁でのチェック事項
第一関門である日本国特許庁は、その願書の内容をチェックします。
何をチェックするかというと、基礎出願・基礎登録との一致をチェックするのです。
具体的には以下の事項についてチェックします。
- 商標が基礎出願・基礎登録と同一かどうか
- 指定商品・指定サービスが基礎出願・基礎登録の範囲内かどうか
- 出願人が基礎出願・基礎登録と同一かどうか
これらをチェックした後に、基礎出願・基礎登録との一致が確認されれば、第一関門突破!となり、日本国特許庁は国際登録出願の願書を国際事務局(WIPO)に送ります。
国際登録出願の願書の記載に関する留意点
問題になりやすい事項
このように、第一関門である日本国特許庁は、国際登録出願の願書について、基礎出願・基礎登録との一致をチェックするので、日本国特許庁のチェックを通過するためには、上記の1~3に気を付ければよいということになります。
ただ、「1.商標が基礎出願・基礎登録と同一かどうか」は、基礎出願・基礎登録の商標をそのままコピペするのが普通なので、問題になることは少ないです。
また、「3.出願人が基礎出願・基礎登録と同一かどうか」も、基礎出願・基礎登録の出願人や権利者の名前と住所を英語表記すればよいので、問題になることは少ないでしょう。
一番問題になるのは、「2.指定商品・指定サービスが基礎出願・基礎登録の範囲内かどうか」です。
なぜ問題になりやすいのか?
国際登録出願の願書は、すべて英語で記載しなければなりません。
そして、日本語で書かれている基礎出願・基礎登録の内容との相違が出やすいのが、指定商品・指定サービスの記載なのです。
国際登録出願の願書に記載する指定商品・指定サービスは、基礎出願・基礎登録の範囲内で記載しなければならず、範囲を拡張することは許されません。
この範囲が結構わかりにくかったりします。
具体例
例えば、基礎出願又は基礎登録の指定商品が第25類「履物」だった場合、国際登録出願の願書に指定商品を「Footwear」と記載することは許されません。
なぜか???
商品区分の第25類の中には、靴や下駄のような一般的の履物の他に、ゴルフシューズやボーリング用シューズ等のスポーツ用途に特化した履物である「運動用特殊靴」が含まれています。
ここで、日本の審査基準上、「履物」は靴や下駄などの一般的の履物のみを指し、「運動用特殊靴」は含まれないものと扱われています。
一方、英語の「Footwear」について、日本国特許庁は、一般的な履物に加えて、スポーツ用途の履物も含む概念として扱っています。
そのため、日本国特許庁は、英語の「Footwear」の方が、日本の審査基準上の「履物」よりも範囲が広いと判断し、指定商品・指定サービスが基礎出願・基礎登録の範囲を超えると認定するのです。
基礎出願・基礎登録の指定商品が第25類「履物」の場合、国際登録出願の願書における指定商品は「footwear other than special footwear for sports」としなければなりません。
また、国際登録出願の願書における指定商品欄に「Footwear」と記載したい場合には、基礎出願・基礎登録に「履物」と「運動用特殊靴」の双方が含まれていなければなりません。
指定商品・指定サービスの英語での記載はどうやって作るの?
指定商品・指定サービスの英語での記載は、基礎出願・基礎登録の指定商品・指定サービスを1から自分で翻訳する必要はありません。
通常、基礎出願や基礎登録の指定商品・指定サービスは、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」の「商品・役務名検索」に掲載されている商品・サービスを記載することが多いと思います。
そして、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」の「商品・役務名検索」に掲載されている商品・サービスは、英語訳が一緒に掲載されているものが多くあります。
日本国特許庁は、ここに記載されている英語訳は、その日本語の指定商品・指定サービスの英語訳として認めるので、「2.指定商品・指定サービスが基礎出願・基礎登録の範囲内かどうか」を問題なく通過することができます。
さいごに
今回は、国際登録制度を利用したネーミング独占を進めるにあたっての第一関門になる日本国特許庁のチェック内容に焦点を当てて留意点をお伝えしました。
国際登録出願の願書の作成において、指定商品・指定サービスの記載はもっとも神経を使うところです。
基礎出願・基礎登録の範囲内に収まるように指定商品・指定サービスの英語での記載を作成するのが重要です。
国際登録の手続きを進める際には、まずはこの点に留意して、願書の作成を進めましょう。