国際登録制度を利用した外国におけるネーミング独占の留意点(4)
海外ビジネスの成功のためには、製品やサービスのネーミングの独占権(商標権)が必須アイテムです。
なぜ必須アイテムなのか、ご興味ある方は、本ブログの「海外ビジネスを成功させようと思ったら商標権を取得すべし」をご覧ください。
前回は、「国際登録の手続き段階での留意点」として、国際事務局(WIPO)でのチェック事項に関する留意点をお伝えしました。
今回は、国際登録出願で指定した国(指定国)の審査での留意点をお伝えします。
指定国への通報までの流れ
過去のブログでもお伝えしたように、国際登録出願では、各国特許庁での審査の前に、「日本国特許庁でのチェック」と「国際事務局(WIPO)でのチェック」の2つの関門があります。
これら2つの関門を無事にクリアして、ようやく指定国に国際登録の事実が通報されて、各国での審査が始まります。
日本国特許庁への出願書類の提出から指定国への通報まで、スムーズに進んで、おおむね1~2ヶ月程度の時間を要します。
指定国での審査
国際登録は、通報がなされた指定国で、無条件で権利が発生するわけではありません。
その国の制度に則った審査に通過して初めて権利が発生します。
例えば、欧州連合加盟国に効力を有する欧州連合商標(EUTM)は、識別力などの絶対的拒絶理由や指定商品・指定サービスに関してのみ審査された後、第三者からの異議申立期間が設けられ、その後に権利が発生します。
アメリカでは、識別力や指定商品・指定サービスに関する審査のほか、先行商標と抵触するかについても審査がなされ、問題なければ権利が発生します。
商標権は、国ごと、又は欧州連合商標のように条約で定められた地域ごとに発生し、その国・地域においてのみ効力を有します。
そして、国によって、どのような商標を権利として認めるか、認めないかは、その国の法律次第です。
端的にいうと、国際登録は国際的な枠組みでの最低限度の要件を満たすだけで、各指定国での方式や内容に合致していることまでは保証されていないと言えばよいでしょう。
そのため、指定国では、その国の法律や規則に合致した内容であるかどうかを審査するのです。
指定国で審査を受けるにあたっての留意点
指定国の代理人が任命されていない
国際登録出願では、指定国での手続きを担当する代理人は、国際登録出願の段階では任命されていません。
しかし、通常、指定国の特許庁に書類を提出するには、その国での代理権限を保有する代理人に依頼しなければなりません。
指定国での国際登録出願の審査で、問題なく登録が認められれば、代理人を任命せずに登録を受けることはできますが、もし、拒絶理由が通知された場合には、その国の代理人を任命しなければ応答手続きができません。
拒絶理由は、国際事務局(WIPO)経由で届くので問題にはなりませんが、その後の応答は、その国の代理人によらなければ手続できないことを覚えておきましょう。
なお、拒絶理由が発行されてからの応答期限や手続方法は、指定国の法律・規則に従うことになります。
統一された手続があるわけではありませんのでこの点もご注意ください。
指定商品・指定サービスの区分変更ができない
まれに指定国の特許庁が、指定商品・指定サービスの区分が正しくないとの指令を発することがあります。
しかし、国際登録では、指定商品・指定サービスの区分(分類)の変更はできません。
ではどうするか?
区分が正しくないと言われた商品・サービスをその国に限って削除するしかないのです。
これまでにない新しい商品やサービスの場合には、こういうことも起こり得るので注意が必要です。
なお、国際登録出願ではなく、直接出願の場合には、区分を変更すれば容易にこのような指令には応答することができます。
区分の変更の可能性がある指定商品・指定サービスについて商標権を受けようとする場合には、直接出願による権利取得の道も検討したほうが良いでしょう。
指定商品・指定サービスの範囲の解釈はその国次第
指定商品・指定サービスは、日本国特許庁からの国際登録出願では、英語で記載します。
その英語の表現による指定商品・指定サービスの範囲の解釈は指定国次第です。
例えば、日本においては、「調理用具」(日本の審査基準上の翻訳は「cookware」)には、商品「まな板」が含まれますが、外国では、cookwareの概念には「まな板」は含まれないと判断されることがあります。
あくまでも権利範囲の解釈は、国際登録された英語の指定商品に基づいて、その国の特許庁や裁判所が行います。
そのため、国際登録出願の段階で、特に保護したい指定商品・指定サービスについては、明確に疑義のないように記載しておくことが重要です。
権利が発生するタイミング
無事に指定国での審査に通過したらようやくその指定国での権利が発生します。
審査に掛かる時間は、指定国での審査のスピードにもよりますが、国際登録の制度上は、1年又は1年6ヶ月以内に指定国での審査が終わることになっています。
そのため、各国での審査は基本的には、1年半以内に決着がつくと思って良いです。
ここまできて、ようやく指定国での権利が発生します。
前回、国際登録がされても、各国の商標権を入れるカゴができただけで、中身は空っぽとお伝えしましたが、この段階でようやく権利を入れるカゴに商標権が入った状態になるのです。
権利発生後
商標権が発生すれば、その後の権利の維持は基本的には国際登録の管理だけで済みます。
ただ、アメリカやフィリピンなど、商標権の維持のために商標の使用を要求している国においては、一定の期間内に使用証拠や使用の宣言を提出しなければなりません。
そのような提出は、アメリカやフィリピンの現地代理人によらなければ手続できないので、権利発生後も、登録を維持するために、国際事務局(WIPO)以外に手続きが必要な場合があります。
保護が認められた際に送られてくる通知に留意点が記載されているので、よく読んで期限を管理することが必要です。
さいごに
全4回にわたって、国際登録出願の制度についてお伝えしました。
国際登録出願制度は、最初の手続は日本国特許庁に書類を提出するだけで済むので手軽ですが、権利の発生のためには、各指定国での登録要件に合致していなければなりません。
そのため、単に”簡単だから”、”手軽だから”という理由だけで、不慣れな手続きを進めると、『商標権を得てブランドを守る』という本来の目的が達成できないことがあります。
そのような事態にならないために、本稿が少しでもお役に立てれば幸いです。