Impact of Brexit(EU離脱の影響)~合意なき離脱の場合~
※本内容に関連する最新記事は、2020年1月21日に公開した記事です。併せてご覧ください。
1月15日、イギリス議会(下院)において、イギリス政府とEUとの間で合意されたイギリスのEU離脱案の受け入れ是非を問う採決が行われ、大差で否決されました。
これを受け、2019年3月29日の”no deal Brexit”(合意なき離脱)の可能性を現実に考慮した事業活動が必要となってきました。
知的財産権分野に関しては、本ブログの「Impact of Brexit (EU離脱の影響)」でも述べたとおり、 欧州連合知的財産庁(EUIPO)が管轄する欧州連合商標(EUTM)と登録共同体意匠(RCD)に影響がありそうです。
要点
まず、欧州連合商標(EUTM)や登録共同体意匠(RCD)で守られていた権利(商標権・意匠権)が、イギリスのEU離脱により、即座に効力を失うことはありません。
イギリスを含まなくなったEU域内においては、そのままEUTMやRCDの権利が存続します。
一方で、イギリス国内においては、自動的または手続きを踏むことでイギリス国内の権利や出願として存続する見込みです。
以下、 EUTMやRCDのイギリス国内におけるBrexitの影響について、2019年1月22日時点で分かっている事項を改めて記しておきます。
情報の主なソースは、2019年1月17日に更新されたイギリス知的財産庁が公表しているガイダンス「Trade marks and designs if there’s no Brexit deal」です。
Brexit時点で登録済みのEUTM・RCD
Brexitの時点( ”合意なき離脱”の場合は、2019年3月29日)で権利として登録されているEUTMやRCDは、Brexitのタイミングでイギリス国内法における同等な権利として、引き続き保護されます。
そのため、権利の空白期間が生じることはありません。
イギリス国内法における同等な権利の発効のために「minimal administrative burden」(最低限の行政上の負担)が要求される可能性があるとのことですが、この内容はまだ明らかになっていません。
ひとたびイギリス国内法で EUTMの対象となっていた商標やRCDの対象となっていた意匠がそれぞれ商標権・意匠権として保護されると、EUTMやRCDとは独立して、権利の更新や譲渡、ライセンスが可能となります。
イギリス知的財産庁は、権利者に対して、新しいイギリス国内法下の権利が許可されたことを、通知の発行及びウェブサイト上のガイダンスにより知らせるとのことです。
Brexit時点で出願中のEUTM・RCD
Brexitの時点( ”合意なき離脱”の場合は、2019年3月29日)で 出願中のEUTMやRCDは、自動的には、イギリスにおける出願にはなりません。
EUTMやRCDの出願人が、出願中のEUTMの対象となっていた商標やRCDの対象となっていた意匠について、イギリス国内での保護を求めたい場合、イギリス国内法に基づく再出願が必要になります。
この再出願を、Brexitから9ヶ月以内に行うことで、EUTMやRCDの出願日(優先日)の利益を受けることができます。
再出願に際しては、イギリス国内法において要求される出願費用を支払う必要があります。
なお、イギリス知的財産庁から、EUTMやRCDの出願人に対して、再出願の必要性を促す通知はなされない見込みです。
そのため、出願人自身で、Brexit時点で登録となっていない出願をチェックし、必要に応じて、イギリスでの再出願を進めなければなりません。
まとめ
このように、EUTMやRCD のイギリス国内におけるBrexitの影響は、Brexit時点でのEUTMやRCDの現況(ステータス)によって異なります。
現況 | 取り扱い | |
登録済み | → | イギリス国内法における同等な権利として引き続き保護される |
出願中 | → | 9ヶ月以内の再出願により、EUTMやRCDの出願日の利益を享受 |
上記のとおり、気を付けるべきは、出願中のEUTMやRCDの存在です。
Brexitのタイミング(移行期間の有無)は、まだ最終決定していませんが、出願中のEUTMやRCDを保有している企業や個人においては、Brexitのタイミングと自身のEUTMやRCDのステータスに注視する必要があります。