指定商品「日本酒」の行方

日本酒

新年が明けて半月が過ぎました。年末年始は日本の伝統行事が多いことから、日本酒を飲んだ方も多いのではないでしょうか。

さて、商標登録に関する実務において、指定商品としての「日本酒」は、ここ数年その取り扱いに変遷があり、昨年ようやく落ち着きました。今回はその内容をご紹介したいと思います。

今日の取り扱い

「日本酒」は、2018年4月13日の特許庁の発表により、「日本産の清酒」を指す指定商品表示として認めらました。

そして、2019年1月1日から適用される「類似商品・役務審査基準」には、「日本酒」の表示が清酒の下位概念として掲載されるに至りました。

変遷

2015年までの取り扱い

このように、今日では「日本産の清酒」を指す指定商品の表示「日本酒」、実は2015年まで、特許庁では「泡盛、合成清酒、焼酎、白酒、清酒、直し、みりん」が含まれる概念として取り扱われていました。

「日本酒=日本の酒」という意味合いです。

ただ、今日の私たちが”日本酒”という言葉を用いるときは、一般的に”清酒”のことを指しており、特許庁での日本酒の概念と一般の認識とに差がありました。

2016年~2018年4月の取り扱い

2013年12月「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された後、特定の産地と品質等の面で結び付きのある農林水産物・食品等の産品の名称を「地理的表示」として保護する流れが加速しました。

そして、2015年12月25日に、 酒類業を所管する国税庁が、日本酒のブランド価値向上や輸出促進の観点から、国レベルの地理的表示 (Geographical Indication:GI)として「日本酒」を指定しました。

日本酒が名乗れるのは、「原料の米に国内産米のみを使い、かつ、日本国内で製造された清酒のみ」としたのです。

なお、外国の地理的表示の例として有名なものには、「ボルドーワイン」や「スコッチウイスキー」があります。

和食が世界的な知名度を獲得する中で、外国で”清酒”が作られ、「日本酒」と名乗られることに対する問題意識があったことは容易に想像がつきます。

そして、「日本酒」の地理的表示の指定を受けて、特許庁は、 指定商品「日本酒」の表示を認めないことにしました。

指定商品に「日本酒」が含まれる場合、それがこれまで特許庁で扱ってきた日本酒の概念(= 「泡盛、合成清酒、焼酎、白酒、清酒、直し、みりん」等)を意図したものであるのか、地理的表示の表示基準を満たした「日本酒」(=日本産の清酒)を意図したものであるのか不明となることがその理由です。

2018年4月移行の取り扱い

上記の実務が2年ほど続いた後、冒頭の「今日の取り扱い」で述べたとおり、特許庁は、2018年4月13日の発表により、再び「日本酒」の表示を認めることにしました。

地理的表示としての「日本酒」が、”日本産の清酒”を表示する地理的表示として認識されるに至っていると認められることがその理由で、「日本酒」が「清酒」の下位概念として位置付けられました。

この取り扱い上の注意点は、2015年以前に用いられていた「日本酒」の概念と、2018年4月以降の「日本酒」の概念が異なる点です。

つまり、この発表によって認められることになった「日本酒」には、2015年以前に含まれていた 「泡盛、合成清酒、焼酎、白酒、 日本産以外の清酒、 直し、みりん」 等は含まれないのです。

そのため、2015年以前の「日本酒」と、2018年4月以降の「日本酒」とでは、その保護される商品範囲が異なります。

なんともややこしいことになりました。

最後に

上記の通り、今日の指定商品の表示「日本酒」には、過去には含まれていた日本産の清酒以外の”日本の酒”が入らない概念となりました。

そのため、泡盛や焼酎などを製造・販売する企業においては、商標出願の際に、これまでどおり”日本酒”と記載してしまうと、自社の商品が守れなくなる可能性があります。

酒類を扱う企業においては、酒の種類を「泡盛」や「焼酎」など、具体的な商品表示をして出願することをお勧めします。

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