商標登録による「箱根駅伝」の商業利用の排除

毎年1月2日〜3日に行われる東京箱根間往復大学駅伝競走「箱根駅伝」。第95回目となった今年は、私の母校である東海大学が、みごとに初優勝しました。

私の実家近くの沿道は箱根駅伝の走路になっており、私も毎年観戦しています。今年は、1月2日の往路の走りを見に行きました。

そんな箱根駅伝は、正月恒例のスポーツとして、高い知名度を有していると思います。

そのため、商業的な意味でもいろんな利害が絡んでくると思われます。

そうなると、やっぱり商標の話が出てくるわけです。今回は、箱根駅伝にまつわる商標を取り上げたいと思います。

「箱根駅伝」に関する商標登録

調べてみたところ、「箱根駅伝」に関する商標登録は、以下の3件がありました。

登録番号登録年商標区分
(1)登録第5387803号2011年
箱根駅伝の商標登録
第39類
(1区分のみ)
(2)登録第5565518号2013年
箱根駅伝の商標登録
第28類、
第32類、
第41類など、
(合計14区分)
(3)登録第5903377号2016年
箱根駅伝の商標登録
第28類、
第32類、
第41類など、
(合計14区分)

これらの商標権の現在の権利者は、”株式会社読売新聞東京本社”です。

箱根駅伝の主催者は関東学生陸上競技連盟ですが、共催者である読売新聞が商標登録しているのです。

商標登録の中身

さて、ここで、上の(1)の商標は3つの中で最初に権利を取得したもので2011年に登録されていますが、その時の指定商品・指定役務の区分は第39類のみです。

そして、この第39類で指定しているサービスの内容を見ると、「鉄道による輸送」や「車両による輸送」、「主催旅行の実施」「駐車場の提供」など、駅伝とはあまり関係のないサービスを指定していました。

どういうこっちゃ?

一方で、(2)と(3)は全部で14もの区分に出願しており、駅伝の運営に関連する「スポーツの興行の企画・運営又は開催(第41類)」のほか、協賛企業(ミズノやサッポロビール)の事業に関連する「運動用具(第28類)」「ビール(第32類)」、文房具やタオルなど幅広く権利が取られていました。

ただ、テレビ放送に関する第38類や自動車(第12類)は含まれていませんでした。

商標登録の目的を推測

ところで、箱根駅伝の常連校である東洋大学の校友会のウェブサイトに「箱根駅伝についてのお願い」と題する記事が2009年12月22日付けで掲載されており、その中に以下の記載を発見しました。

箱根駅伝の名称利用
近年、箱根駅伝を商業利用しようとする企業・団体が増えております。「箱根駅伝」の名称は商標登録されており、その利用にあたっては、関東学生陸上競技連盟と関係各社が協議して許諾の判断をしております。・・・(以下省略)

http://www.alumni-toyo.jp/branch/jimukyoku/2009/12/post-36.html

箱根駅伝に関する商標登録が2011年ですので、時期的には1シーズンの時間差です。ということは、主催者や共催者として、野放しに増えてきた商業利用に対抗するために商標登録をした可能性が少なからずあるのではないかと推測できます。

旅行会社による観戦ツアーや、芦ノ湖周辺の駐車場などで「箱根駅伝」の文字が使われることが多くなっていたのではないでしょうか(※あくまでも推測です)。

他人が「箱根駅伝」の文字を無断で商業利用することを防止するために商標権を取得した、ということであれば、その後に商標登録された(2)や(3)の内容に、テレビ放送に関する第38類が含まれていない一方で、グッズとして販売されそうな、運動用具や飲食物、文房具、タオルなどが指定商品に含まれていることが腑に落ちます。

自動車が含まれていないのは、”箱根駅伝”仕様車みたいな車が販売されることは通常想定されないからではないでしょうか。

まとめ

「箱根駅伝」は、2011年にはすでに80回を越える開催を記録し、相当な知名度がある競技大会だったと思います。

そのため、主催者自身や共催者自身による「箱根駅伝」の言葉の使用は、長年の使用によって裏付けられており、法的にも問題がなかったはずです。

そうすると、読売新聞による「箱根駅伝」の商標登録は、「箱根駅伝」という言葉を安全に使用することを目的とするのではなく、無断で商業利用をする他社の排除を目的とした商標権の取得であったと分析できます。

インターネットで検索したところでは、今日では旅行会社や予約サイトは「箱根で駅伝観戦ツアー」や「箱根に駅伝観戦に行こう!」など、”箱根駅伝”という一連の言葉を明らかに避けて表現しているように思われます。

「箱根駅伝」という言葉を使っていない企業による観戦ツアーは、協賛企業や許諾を受けた会社が実施している公式ツアーではない、ということが言えると思います。

そういう意味では、商標権の取得による、無断での商業利用の排除は、うまく機能しているのかなと思います。

ブランド保護の実践的な戦略の一事例だと思います。

さいごに

東京オリンピックを間近に控え、同様のことが想定されます。

旅行各社は「4年に一度の応援ツアー」等と称して観戦ツアーを組むのでしょうか。

ぜひ、オリンピックの開催に合わせた、企業の商品やサービスの表現方法にも注目してみてください!

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