その商標、本当に使うんですか?
4月1日に新元号「令和」が発表され、にわかに新たな商標出願ネタとして話題になっています。
元号が商標登録の対象にならないことは「新元号の商標登録は可能か」でお伝えしました。
つまり、元号「令和」単独での商標登録はできません。
でも、例えば、サービス「歯科医業」について、『令和チューリップ歯科』のように、商品やサービスとの関係で他社との識別マークとなりえる言葉(この例では、”チューリップ歯科”)との組み合わせであれば登録が認められる可能性はあります。
そうすると、このような「令和」関連の商標出願が、4月1日以降たくさん出てくると見込まれます。
ところが、商標は、使って初めて保護する価値がでてくるもので、商標法では使っていない商標を取り消す制度を用意しています。
今日は、その制度をご紹介したいと思います。
使っていない商標の取り消し制度
商標法第50条第1項は次のように規定されています。
継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
つまり、登録された商標が、3年以上、権利者やライセンスを受けた人によって使用されていない場合、誰でも、特許庁に対して、商標登録の取り消しを請求できるのです。
この取り消し制度のことを、不使用取消審判といいます。
不使用取消審判を請求された場合、商標の権利者が、商標を使用していることを証明しなければなりません。
権利者が、商標の使用を証明できない場合、商標権は取り消されてしまいます。
そのため、適切に商標権を維持するには、権利者は、登録した商標を使用し続ける必要があるのです。
どうして取り消す制度があるのか
どうして商標法はこんな不使用取消審判という制度を用意しているのでしょうか。
それは、商標法には、商品名やロゴに付随する業務上の信用の維持を図る目的があるからからです。
商標は使って初めて「商品やサービス」と「商標(商品名やロゴ)」との関係を消費者が認識します。
過去に商品やサービスとの関係で商標を見たことがあるから、「この商標が付いたものは良い製品だ!」とか「あの商標がついた商品を買おう」と思うのです。
これが”商品名やロゴに付随する業務上の信用”です。
Apple Inc. のリンゴのロゴは、Apple Inc.がコンピュータやスマートフォンに使用することで、コンピュータやスマートフォンのブランドを示すロゴ(商標)として認識されたのです。
これを逆の面からみると、使っていない商標には、業務上の信用は付随していないのです。
そのため、商標法は、使っていない商標は保護に値しないものとして取り扱っているのです。
むしろ、使っていない商標が登録されているために、他の人の商標選択の余地が狭められてしまう弊害も出てきます。
このような弊害をなくすために、商標法では、使用されていない商標を不使用取消審判という制度を設けて、取り消しできるようにしたのです。
統計
毎年、不使用取消審判は、1,000件前後請求されています。
そのうち、7~8割について、商標の取り消しが認められています。
かなりの数の商標が不使用取消審判で取り消されているのです。
もちろん、不使用取消審判の請求前に、権利者が商標を使っているかどうかをチェックしてから不使用取消審判を請求するのが通常ですから、取り消しが認められる割合が高いのかもしれません。
ただ、それでも、毎年700件以上の商標が不使用取消審判で取り消されるということは、使っていない商標が多いということです。
おわりに
冒頭、「令和チューリップ歯科」のような商標なら登録になる可能性があると述べましたが、改元に乗じて商標出願するのではなく、あくまでも使うことを前提に出願すべきです。
将来的に誰かに売って一儲けしようと「令和チューリップ歯科」「令和スミレ歯科」「令和ひまわり歯科」「令和マーガレット歯科」などの商標権を取得しても、使わなければ取り消される可能性が高いのです。
「使用する商標をきちんと権利化する」。これが商標を保護して、業務上の信用の維持を図るためには重要なのです。
単純ですが、常にこのことを念頭に置いておく必要があります。