国際登録制度を利用した外国におけるネーミング独占の留意点(3)
海外ビジネスの成功のためには、製品やサービスのネーミングの独占権(商標権)が必須アイテムです。
なぜ必須アイテムなのか、ご興味ある方は、本ブログの「海外ビジネスを成功させようと思ったら商標権を取得すべし」をご覧ください。
前回は、「国際登録の手続き段階での留意点」のとして、日本国特許庁でのチェック事項に関する留意点をお伝えしました。
今回は、国際事務局(WIPO)でのチェック事項に対応した留意点をお伝えします。
国際登録出願の手続きの流れ
前回お伝えしたとおり、国際登録の手続き(国際登録出願)は、所定の出願フォーム(願書)に必要事項を記入し、日本国特許庁に提出することで行います。
そして、国際登録出願では、各国特許庁での審査の前に、「日本国特許庁でのチェック」と「国際事務局(WIPO)でのチェック」の2つの関門があるとお伝えしました。
日本国特許庁では、出願書類について、基礎出願・基礎登録との一致をチェックします。
無事に、日本国特許庁のチェックで基礎出願・基礎登録との一致が認められると、出願書類は、国際事務局(WIPO)に送付されます。
次は国際事務局(WIPO)でのチェックということです。
国際事務局(WIPO)でのチェック事項
第二関門である国際事務局(WIPO)は、主として、国際登録出願の指定商品・指定サービスについて、次の事項をチェックします。
- 指定商品・指定サービスの分類が正しいか
- 指定商品・指定サービスの表示が不明確ではないか
これらをチェックして、問題がなければ、国際事務局(WIPO)は国際登録をし、国際登録証を発行します。
そして、国際登録出願で指定した国(指定国)に国際登録で指定されている旨を通報します。
国際事務局(WIPO)のチェック事項に関する留意点
指定商品・指定サービスの分類が正しいか
指定商品・指定サービスの分類とは、「ニース国際分類」という国際的に共通化された商標登録のための分類です。
世の中にある商品やサービスを、第1類~第45類の区分に分類しています。
日本もこのニース国際分類を採用しています。
ということは、日本の出願の審査でニース国際分類に沿って指定商品・指定サービスが記載されていれば、分類は正しいに決まっているのでは??
と思われた方は鋭いご指摘です。
そうです。
基本的には、分類が正しくないという指摘は多くありません。
しかし、商品やサービスによっては、日本国特許庁が認める分類と、国際事務局(WIPO)が認める分類が異なる場合があります。
例えば、「衛生マスク」は、日本で採用される分類と国際事務局(WIPO)が認める分類は異なります。
そのため、このような商品・サービスを指定する場合には、国際段階での分類の変更を考慮しておく必要があります。
指定商品・指定サービスの表示が不明確ではないか
指定商品・指定サービスの表示が、日本の基準では認められるものでも、それを国際登録出願の指定商品・指定サービスとして英訳したときに、国際事務局(WIPO)が、不明確・理解できない又は語学的に不正確であると判断する場合があります。
例えば、日本の審査基準上、第18類「傘」の翻訳は「umbrellas and their parts」として記載されていますが、国際事務局(WIPO)では「their parts」の表現を、不明確であると判断することがあります。
そのため、傘の部品についての商標を取得したい場合には、それぞれの部品名(例えば、傘カバー(umbrella covers))を明記して出願すべきです。
日本の実務上は、指定商品に「部品」や「附属品」との記載をすることで、包括的に、主たる商品とその部品・附属品をカバーした表示ができるのですが、国際出願においてはそのような表示はあまりお勧めできません。
部品や附属品を積極的に保護したい場合には、国際登録出願の最初の段階で指定商品に記載しておくべきです。
国際事務局(WIPO)が不備を発見したら・・・
国際事務局(WIPO)が、「1.指定商品・指定サービスの分類が正しいか」と「2.指定商品・指定サービスの表示が不明確ではないか」について不備を発見すると、欠陥通報という通知を出願人に出します。
出願人は、欠陥通報を受領した場合、国際事務局(WIPO)に対して、3ヶ月以内に応答する必要があります。
ただし、指定商品・指定サービスに関する欠陥通報への対応は、日本国特許庁を経由して行わなければなりません。
そして、日本国特許庁は、独自の応答期限として、2週間以内日本国特許庁に書類を提出するように要求します。
そのため、国際事務局(WIPO)からの欠陥通報を受け取ったときは、早急に対応を検討して応答書類を作成する必要があります。
なお、応答によって分類数が増加する場合には、追加費用が掛かることがあります。
国際登録
無事に国際事務局(WIPO)でのチェックを通過したら第二関門通過!となり国際登録が認められます。
ただし、国際登録がなされても、まだどの国でも権利は発生していません。
国際登録されても、それは、各国の商標権を入れるカゴができただけで、中身は空っぽだと思っていただければよいと思います。
この後、国際事務局(WIPO)は、国際登録出願で指定した国(指定国)に国際登録で指定されている旨を通報します。
さいごに
今回は、国際登録制度を利用したネーミング独占を進めるにあたっての第二関門「国際事務局(WIPO)のチェック内容」に焦点を当てて留意点をお伝えしました。
なお、国際事務局(WIPO)への対応は、基本的に英語での文書のやり取りになります。
この段階からは、ある程度の英語の能力(読み書き)が必要になってきます。
英語は国際制度を利用する上で避けて通れないと思います。
国際登録がなされれば、国際段階の対応は完了です。
この後、各指定国での審査になります。
まだどの国でも権利にはなっていないものの、 国際登録までいけば一つの峠を越えたといえるでしょう。
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