身近な事案に見る商標管理の重要性

もうすぐ4月です。

幼稚園・保育園、学校など、新たな学期になり、新しい生活が始まります。

その準備に忙しい3月、東京都は、2月に不適切な保育に対する改善勧告を行ったにもかかわらず、改善が認められないとの理由で、ある保育園の名称を公表しました。

今日は、この公表に関連して、商標管理の重要性についてお伝えしたいと思います。

商標の管理って?

まず、商標の管理と言っても、いくつかの観点があると思います。

  1. 商標権を維持するための権利の管理
  2. 自社の商標の使い方の管理
  3. 他社による商標権侵害を監視して必要な対策をする管理

「1.商標権を維持するための権利の管理」は、商標権が失効しないように、権利の更新手続きを適時に行ったり、他社からの取消請求などに対応することが挙げられます。

「2.自社の商標の使い方の管理」は、自社の商標の使用範囲を商標権の範囲と一致させることや、商標の使用方法を統一することが挙げられます。

「3.他社による商標権侵害を監視して必要な対策をする管理 」は、他社が、自社の登録商標を使用していないか監視し、使用している場合には、止めさせることが挙げられます。

今回お伝えする「商標の管理」は「3.他社による商標権侵害を監視して必要な対策をする管理」に関するものです。

事案の内容

改善勧告の公表

2019年3月12日、東京都は、「改善勧告に従わない認可外保育施設「にじいろ保育園」について」と題して、改善勧告の内容及び改善の状況を公表しました。

東京都の報道発表資料
東京都の報道発表資料

公表内容によると、その保育園(以下「認可外にじいろ保育園」といいます)では、施設長が、児童のおしりを叩く、顔をびんたする、食事を無理やり食べさせるなど身体的な苦痛を与える保育を繰り返し行っていたとのことです。

この発表内容は、各報道機関でも取り上げられ、「にじいろ保育園」は、虹色ではなくブラックとの印象を多くの人が抱いたことでしょう。

別の”にじいろ保育園”の存在

ところが、この東京都の公表やそれを受けた報道によって、別の”にじいろ保育園”(以下「認可・認証にじいろ保育園」といいます)が影響を受けました。

ライクキッズネクスト株式会社・ライクアカデミー株式会社は、”にじいろ保育園”の名称で、認可保育園・認証保育所を運営しており、「認可外にじいろ保育園」と同じ名前で保育園を運営していることによって、そのマイナスイメージをもろに受けてしまったのです。

おそらく、この「認可・認証にじいろ保育園」には、東京都の公表を受けて、たくさんの問い合わせがあったのでしょう。

3月12日には、ウェブサイト上で、「認可・認証にじいろ保育園」が「認可外にじいろ保育園」とは一切関係ないことを発表しています。

認可・認証にじいろ保育園のウェブ発表
認可・認証にじいろ保育園のウェブ発表

「認可・認証にじいろ保育園」のウェブサイトによると、ライクキッズネクスト株式会社・ライクアカデミー株式会社は、都内だけでも50以上の”にじいろ保育園”を運営しており、”にじいろ保育園”という名前にリンクしたマイナスイメージの影響は大きかったと想像できます。

認可・認証にじいろ保育園の商標権

私はこのニュースを聞いて、商標権で他社の使用を抑止していれば、このようなことは起きなかっただろうと思い、商標権の存在を確認したところ、なんと、「認可・認証にじいろ保育園」側には商標権がありました。

商標登録第5505101号

認可・認証にじいろ保育園の商標登録
商標登録第5505101号

ちゃんと、使っている商標を適切なサービスについて商標登録しているじゃないですか!?

権利者のサクセスホールディングス株式会社は、「認可・認証にじいろ保育園」の運営会社の旧社名のようです。

どうしてこんなことが?

「認可外にじいろ保育園」は、葛飾区亀有に住所があります。

一方、「認可・認証にじいろ保育園」は、葛飾区西亀有に”にじいろ保育園”を有しています。

地区としては隣です。

仮に「認可・認証にじいろ保育園」側が「認可外にじいろ保育園」の存在に気づいていたとしたら、商標権を行使して「認可外にじいろ保育園」が”にじいろ保育園”を名乗らないように対策していなかったのか疑問です。

商標権侵害の排除の必要性

商標権を取得したとしても、他社が自発的に同じ名称の使用を避けてくれる保証はありません。

また、他社が登録商標と同じ名称を使用しても、自社による名称使用ができなくなるわけでもありません。

例えば、自分のボールペンが他人に盗まれたら、自分が使えなくなります。

でも、商標の場合はそうではありません。

「認可外にじいろ保育園」が”にじいろ保育園”を名乗っても、「認可・認証にじいろ保育園」は、依然として自分たちを”にじいろ保育園”と名乗ることに問題はないのです。

つまり、商標権を侵害する他社に文句を言わなくても、自社での”商標の使用”に大きな影響はないのです。

そのため、商標権侵害に気付いた初期段階では「この程度なら、まあいいか。」「相手は小さいから黙認しておこう。」となってしまうことがあります。

また、商標権の侵害をする他社に対して文句を言うことは、いわゆる「喧嘩」になるので、事業者としては躊躇することもあるかと思います。

でも、どんなに相手が小さくても、名前が持つ力は大きなものです。

「認可・認証にじいろ保育園」が保有する”にじいろ保育園”の商標権には、保護者たちが子供を預けて安全・安心という信用が蓄積されているのです。

今回の事案で取り上げた改善勧告がなされるようなケースは二度と起きてほしくありませんが、商標権者が、商標管理の一環として「他社による商標権侵害を監視して必要な対策をすること」の重要性を考えさせられる事案でした。

 

 

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