EUとのEPA発効による食品表示への影響

Impact of EPA between JAPAN and EU

2019年2月1日に、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が発効しました。

大きな影響として、欧州産のワインやチーズ、ハム、チョコレート等が、関税の撤廃や削減により、安く手に入ることが期待されています。

一方で、欧州産の産品の地理的表示(GI (Geographical Indications))について「より高いレベルでの保護」が求められることになりました。

広告やレストランのメニューにも適用される見通しのため、大手の流通業者だけでなく、一般の小売店やレストランにも影響があります。

地理的表示の使用方法を誤ると、「産地偽装」の炎上騒ぎにもなりかねません。身近な問題として認識したほうがよいと思いますので記事にしてみました。

地理的表示(GI)とは

地理的表⽰とは、「農林⽔産物・⾷品等の名称で、その名称から当該産品の産地を特定でき、産品の品質や社会的評価等の確⽴した特性が当該産地と結び付いているということを特定できる名称の表⽰をいう。」と定義されています。

すごく簡単にいうと、”その土地でできた食品関係の特産品の名称”のことです。

地理的表示として保護されるには、農林水産大臣に申請して、審査を経なければならず、産品の特性・生産方法なども審査対象になっています。

日本における地理的表示としては、例えば、「夕張メロン」「神戸ビーフ」「越前がに」等が登録されています(2019年1月末の時点では73の産品が登録されています)。

この地理的表示の保護制度は日本独自のものではなく、世界的にも知的財産の一つとして位置付けられており、すでに100ヵ国以上で何らかの形で地理的表示が保護されています。

そして、今回の日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の発効に伴い、欧州産の産品の地理的表示の保護が日本にも及ぶことになったのです(正確には、日本の地理的表示とEUの地理的表示を相互に保護することになりました)。

日本で保護されるEUの地理的表示

それでは、欧州産の産品の地理的表示にはどうものあるのでしょうか。

以下全部で71産品です。

カタカナばかりで何が何だかという感じですが、よく見ると、「パルミジャーノ・レッジャーノ」や「ゴルゴンゾーラ」等、よく聞く名称もあります。

GI-EU産品
日本で保護される欧州の産品

禁止される行為

次に、地理的表示の保護に伴って禁止される行為についての概要です。

禁止される表示行為

次の2つの行為が禁止されます。

  1. 消費者に本物の地理的表示産品と誤認させるような名称を使用する行為
  2. 本物ではない産品について、地理的表示を以下のように使用する行為
    1. 真正の産地を記載している場合
    2. 翻訳、音訳である場合
    3. ~種、~タイプ、~スタイル等の表現を伴う場合

上記の1.はわかりやすいと思います。

例えば、サラミに「セゲディ・サラーミ」の表示を付けられるのは、ハンガリー・セゲド市で特定の製造方法等によって製造されたサラミのみです。これに従っていないサラミには、たとえハンガリー産であっても「セゲディ・サラーミ」の表示を用いることはできません。

上記の2.については、A~Cの態様ごとにみていきましょう。

2.A「真正の産地を記載している場合」とは、北海道産のチーズに「北海道産パルミジャーノ・レッジャーノ」という表示を使用する行為が該当します。産地を明示しても、本物ではない産品に地理的表示を用いてはいけません。

2.B「翻訳、音訳である場合」とは、本物の「Prosciutto Toscano(プロシュット トスカーノ)」ではない生ハムに「トスカーノハム」の表示を使用する行為です。

2.C「~種、~タイプ、~スタイル等の表現を伴う場合」とは、「レープクーヘン・ニュルンベルガー スタイル」のような使い方です。本場の味を完璧に模しても、地理的表示と紛らわしい使い方はNGです。

また、農林水産省の例では、「ゴルゴンゾーラへのオマージュを込めた国産ブルーチーズ」という表示もNGとされています。国産品とわかる表示を明確にしてもダメということですね。

禁止される対象物

そして、表示対象物は、産品への直接的な表示だけでなく、広告等への表示も規制の対象になります。

特に、外食メニューでの地理的表示の使用も規制されますので、例えばドイツ料理のレストランで日本の厨房内で作ったソーセージについて、メニューに「ニュルンベルガーブラートブルスト」と表示しているものは、地理的表示「Nürnberger Bratwürste(ニュルンベルガー ブラートブルスト)」を侵害する可能性があります。

なお、地理的表示法には「先使用」という考え方があり、地理的表示の指定前から不正目的なく使用していた場合には、「先使用」として、引き続きの使用が認められる例外があります。

ただ、この先使用は、これまで期限なく認められていましたが、今回のEUとのEPAの発効を機に、期間が7年間に限定されます。

そのため、EUの地理的表示を使用しているメニューについては、近い将来、見直しが必要になる可能性があります。

許される行為(例外)

上記のとおり、EUの地理的表示の使用制限がなされるわけですが、上記の地理的表示の中には、すでに日本の生活に溶け込み、一般的に使用されている言葉もあります。

例えば、日本で流通しているチーズの「パルメザン」は、「パルミジャーノ レッジャーノ」とは異なるものです。

そのため、「パルメザン」は、「パルミジャーノ レッジャーノ」 が名称の由来であっても、引き続き使用することができます。

ただし、「パルミジャーノ レッジャーノ」と誤認するような使用方法は認められません(例:「本場イタリアのパルメザンチーズ」)。

このほか、「カマンベール ド ノルマンディ」は、フランスチーズの地理的表示ですが、日本では「カマンベール」は、チーズの種類の一般的な名称として認識されているので引き続き使用することができ、「北海道産カマンベール」という表記は可能です。

上記は一例で、同様の例外が適用される地理的表示が複数あります。

さいごに

報道によると、政府は、民間企業に委託して、日本国内で不正な使用がないかどうか1年間かけて調査するとのことです。

政府としては、EUとの経済連携協定を発効させて、地理的表示の保護を約束したので、その手前、EUの地理的表示の保護の実効性を示す必要があるのでしょう。

そのため、小売店での表示のほか、レストランにおけるメニュー表示についても見直す必要があると思います。

悪意がなくても「産地偽装」という事態にも発展しかねませんので、今からの対策をお勧めします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です