押印存続手続きの取り扱いについて
2020年後半に、河野太郎行政・規制改革担当大臣が、民間からの行政手続きの多くで押印を廃止すると発表して、各省庁・役所で押印の見直しが進みました。
特許庁でも2020年12月28日に押印の廃止を発表し、即日、運用が始まりました(以下の図の666種の手続き)。
そしてこの度、「権利移転登録に付随する手続補正書等の手続」についても押印が廃止されました(上記図の「令和3年3月に廃止予定」の部分=法改正の関係で6月12日に廃止)。
一方で、押印を存続する手続きについては実印による押印と印鑑証明書の提出が要求されることになり、押印廃止から漏れた手続きは負担が増えました。
今回は、押印を存続する手続きについて特許庁が発表した運用をご紹介します。
押印を存続する手続き
今後も押印を存続する手続は次のとおりです。
主に権利の移転や実施権・使用権の設定・登録など書類偽造の影響が大きいものです。
なお、上記のうち、※が付いた「申請書の名義人の押印」については、本人による手続きの場合が対象であって、代理人(弁理士)による手続きの場合は、本人の押印は不要です(代理人が手続きするための委任状は必要です)。
印鑑証明の要件
そして、押印を存続する手続については、実印での押印に加え、印鑑証明書の提出が要求されます。
一度、登録申請書に印鑑証明書を添付して提出すれば、住所や名称、印影に変更がない限り、以降の登録申請では印鑑証明書を提出する必要はありません。
この押印の要件は、会社(法人)の場合と、個人の場合とで、若干異なります。
会社(法人)の場合
会社の場合、以下の2パターンでの手続きが可能です。
1)実印を用いる場合
法務局に登録されている印(実印・代表者印)を押印し、その印についての印鑑証明書を提出する方法です。
原則どおりの手続きです。
2)特許庁の手続用の代表者印を用いる場合
特許庁の手続きを頻繁に行う会社の場合、手続きの都度、実印の押印が必要となると、社内での承認手続きなどの関係で業務に支障をきたす場合があります。
そこで、特許庁では、実印と異なる印鑑であっても、法人の代表者印として用いられることが実印によって証明されたものであれば、実印と同様に用いることを許容することにしています。
「この印鑑は、特許庁への届出や申請で弊社の代表者印(実印)に代えて使用する印です。」ということを記載した証明書に実印を押印し、その実印の印鑑証明書を提出することで、以降、特許庁の手続用の代表者印を実印と同じように用いることができるようになるのです。
この証明書の記載例については以下のリンクをご覧ください。
個人の場合
個人の場合は、1)実印を用いる方法しかありません。
必要な書類に実印を押印し、所在地の役所で取得した印鑑証明書を提出しなければなりません。
印鑑登録をしていない人は、印鑑登録をすることから始めないといけません。
ここで問題。
特許庁の手続きについては、住所ではなく、居所(その人がいる場所)を用いて手続きをしている人も多くいます。
特に、個人事業主は、事業を行っている店舗や事務所を所在地として権利を取得することがよくあります。
そのような権利について移転等をする場合に、印鑑証明書に掲載される住所と権利者の住所とが違っても大丈夫なのでしょうか。
この点について、特許庁に確認したところ、
NGとの回答でした!
原則として、権利者の住所を印鑑証明書に記載されている住所に変更して、印鑑証明書の住所と一致させてから手続きをしなければならないとのことでした。
また、居所が会社の場合には、会社の代表者印をもって、その個人が、印鑑証明書に記載されている住所に所在する個人であることを証明すればよいとも言っていました。
会社などに所属している人であれば、そのような対応も可能でしょう。
しかし、個人事業主の場合には、自分で自分を証明することはできないので認められないでしょう。
ということで、個人の権利について、住民票のある所在地以外を住所(居所)としている場合には、権利の移転等で面倒なことになります。
なお、2021年末までは、6月12日より前に特許庁に届け出た印鑑がある場合、その届出印を使用した登録申請手続きであれば、原則、証明書の提出を省略することが可能です。
さいごに
以上のように、押印廃止の流れの一方で、一部の手続きについては実印による押印と印鑑証明書の提出が加重されます。
また、それに伴い、権利者の住所(居所)が本店所在地や住民票のある住所地でない場合には、権利の処分(移転等)のために住所変更などの追加の手続きが必要になるかもしれません。
不動産登記や融資を受ける場合などは、以前から実印+印鑑証明書は当たり前だったと思います。
特許庁での手続きも、同様になったと考えればよいですが、今までのやり方と異なりますので、今後の手続きでは十分ご留意ください。
手続を進めるにあたって、住所変更が必要か、どのような証明書が必要かは事案によって異なりますので、不明点があれば、事前に特許庁に聞いてから手続きをしたほうがよいでしょう。