商標審査便覧の改訂について

商標審査便覧が改訂されました。

今回の改訂には、商標出願する際に気をつけなければいけない点も含まれるので、ご紹介します。

改訂の具体的内容

優先権主張の効果の審査について(15.01)

この改定箇所は、主に外国人が日本で商標出願する場合に関係する改訂事項のため、日本国内の企業は、あまり気にする必要はないと思います。

いわゆる外内案件の出願を担当する弁理士の実務で関係する改訂事項です。

(1)優先権主張の効果についての判断が必要な場合

優先権主張の効果に関する審査について判断を行うのは、優先日と日本出願の出願日との間に拒絶理由の根拠となり得る先願等があった場合のみに限定する。

特許庁「商標審査便覧の改訂のお知らせ」の「改訂内容の一覧」より

これまで、優先権主張を伴う日本の商標出願においては、優先権主張を認めるかどうかの審査が個別になされ、優先権主張を認めない場合には、審査官からその旨の通知が届いていました。

しかし、実際に優先権主張の可否によって審査結果が変わるのは、優先日と実際の出願日の間に他社の出願が存在する場合などに限られるため、そういった事例があった場合についてのみ優先権主張の効果が認められるかどうかが審査されることになりました。

(2)出願人の同一性の審査

氏名又は名称が一致していれば、優先権主張を伴う商標登録出願の出願人が、優先権証明書に示された出願人と同一人であると判断する。

特許庁「商標審査便覧の改訂のお知らせ」の「改訂内容の一覧」より

特許庁における出願人の同一の判断は、”住所(居所)” と ”氏名(名称)” の双方が完全一致していることが必要でした。

そのため、優先権主張を伴う商標出願でも、優先権証明書に住所が記載されていない場合(例えば、韓国の優先権証明書)については、審査官から、優先権証明書記載の出願人と日本の商標出願の出願人とが同一であることを示す書類を追加で提出するよう求められていました。

これ対応するために、住所が載っている公報を提出したり、会社の登記事項を証明する書類を準備したりと、手続きが煩雑でした。

優先権証明書に出願人の氏名・名称が書かれていないことはないので、今回の改訂によって、そういった追加書類の提出が不要になり、手続きが楽になったでしょう。

指定商品・指定役務の審査に関する運用(46.01)

この改定箇所は、日本で商標出願するすべての人に関係があります。

改訂内容

指定商品又は指定役務について、材質や用途等の記載がない場合であっても、区分を考慮すれば材質や用途等が特定できるときは、第6条第1項及び第2項の要件を具備すると判断する。

特許庁「商標審査便覧の改訂のお知らせ」の「改訂内容の一覧」より

この改定は例を挙げた方がわかりやすいと思います。

審査便覧では「郵便受け」を例にしています。

まず、郵便受けは、その材質によって指定商品の区分(分類)が異なります。

材質による郵便受けの区分の違い

この前提で、例えば商標出願時に指定商品を第6類「郵便受け」とした場合には、第6類は金属製の商品が属する区分なので、第6類「郵便受け」が「金属製郵便受け」を指すものとして取り扱われるというのが今回の改訂内容です。

これまでは、第6類「郵便受け」を指定した場合、「商品が不明確だから、材質を特定した指定商品に補正しなさい。」といった拒絶理由が通知されていたのですが、それがなくなるということです

そして、このような取り扱いになったことから、補正や分割出願が認められる範囲に制限が出てきます。

これまでは、「郵便受け」が ”金属製” であれば第6類「金属製郵便受け」に、”木製”であれば第20類「木製郵便受け」に補正できたのですが、今後はできなくなります。

それは、第6類「郵便受け」と記載した時点で、それは「金属製郵便受け」であることが明確だから、補正は要旨変更に該当すると判断されてしまうからです。

実務上の留意点

この改定箇所については、出願時の区分の選択によって、材質や用途が固定化されてしまう点に留意が必要です。

指定商品・指定役務の区分の選定を誤ってしまうと、そのまま間違った区分で商標登録されてしまう可能性が高くなります。

出願時に、商品の材質や用途をよく検討して、指定商品・指定役務とその区分を決定する必要があります。

さいごに

今回の審査便覧の改訂は、「優先権主張の効果の審査について(15.01)」、「指定商品・指定役務の審査に関する運用(46.01)」のいずれも、審査を効率的に進め、拒絶理由通知の全体量を減らす施策だと思います。

商標審査の長期化が問題となっている特許庁としては、審査官負担の軽減が喫緊の課題なのではないでしょうか。

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