「AI vs 弁理士~商標調査対決~」検索内容の再現
2019年10月10日に東京カルチャーカルチャーにて開催された「AI vs 弁理士」イベントに出演しました。
今回は、私のステージ上での検索内容を再現します。
イベント概要
「AI vs 弁理士~商標調査対決~」のイベントは次の3つのステージから構成されていました。
- 画像調査
- 類否判断
- 識別力判断
「1. 画像調査」は、実際に出願された図形商標について、データベースを使って審査で引用された先行商標を見つけてくるものです。制限時間は1問10分です。
「2. 類否判断」は、2つの商標が提示され、似ているか似ていないかについて、審査官の最初の判断を当てるものです。制限時間は10問10分です。
「3. 識別力判断」は、実際に出願された商標が提示され、識別力(他人の商品やサービスと区別するための名称となりえるかどうか)について、審査官の最初の判断を当てるものです。制限時間は10問10分です。
各ステージに、弁理士1名が登壇し、AIによる判断と対決しました。
私は、これらの3つステージの内、「1. 画像調査」に出演しました。
いざ勝負!
出題内容
出された問題はこちら。
南国を連想させるような花です。
もっと具体的に言えば、ハイビスカスでしょうか。
ステージ上の私は、「この花、よく見るやつ。あれ?なんだっけ?」と極度の緊張で花の名前を思い出せませんでした。
ただ、結果的に、花の名前は調査結果には影響がありませんでした。
実行した調査の内容
図形コードの特定
AIは画像を形として認識して調査を実行しますが、弁理士による図形商標の調査は「図形を構成する要素を分類したコード」を使用して調査を進めます。
出題された画像は、どう見ても「花」なので、まずは、J-PlatPatで「花」を含む図形コードを探しました。
そうすると、以下のような結果が出てきました。
通常の調査では、時間制限が10分ということはないので、大きな概念(例えば、「5.5 草花、木の花」)に含まれるすべての図形を広く見ていくのですが、今回はそんな余裕はありません。
とりあえず、「A5.5.21 一つの花」を選択することにしました。
ただ、「一つの花」だけだと、ヒット件数が多くなるかもしれないと思い、もう一つ要素を絞ろうと思いました。
そこで、問題の図形に含まれる「葉」に着目し、改めてJ-PlatPatで「葉」を含む図形コードを探しました。
ここで、「5.3.11 その他の葉」にしようかと思ったのですが、”その他”が付くコードはあまり絞り込みができないかもと思い、思い切って、「A5.3.15 二枚から四枚までの葉」で絞ることにしました。
いざ検索実行!
上記のとおり、「A5.5.21 一つの花」と「A5.3.15 二枚から四枚までの葉」 の両方のコードが含まれる商標を検索することにしました。
ちなみに、今回の対決では、特許庁のJ-PlatPatでは検索速度や表示速度の心配があったので、有料で提供されているデータベース(日本パテントデータサービスが提供している「Brand Mark Search」)を使用しました。
そして、検索を実行した結果、ヒット件数は162件!
時間制限のある中で確認するにはまずまずな件数で絞り込めました。
続いて、その内容確認を進めたところ、早速↓の商標を見つけました。
あっ!出題された商標の近くに良い感じに似てるのがある!
しめしめ~♪
と思ったのですが、よくよく詳細を見てみると、「出願人:株式会社パイオニア」とあります。
問題の商標の出願人と同じ商標は審査で引用されないのでこれは違う。
危うく自信満々で間違えるところでした。
あぶねーあぶねー。と思っていたところで、すでに5分経過・・・。
正直焦りました。
それでも落ち着いて続きを見ていくと、こんな商標がありました↓
あれ?さっきの間違って回答しそうになった商標のグレースケールか!?
と思いましたが、権利者が株式会社パイオニアではない!?
ということは・・・。
これだ!
審査官はこれを引用したのだろうと予測しました。
並べて対比すると、あまり似ていないかもしれませんが、私が最初に間違って挙げたパイオニアの商標との対比ではほぼ同一と言っても良いくらいの類似度です。
審査官が、一連のパイオニアの花の図形の商標出願に対して、この商標を引用しても不思議ではありません。
ということで、これで2つの回答を得ました。
回答は3つまで出すことができるので、この後、図形コードを変えて改めて検索したものの、これら以上に良い先行商標は見つからず、前述の2つを挙げてタイムオーバー。
私の答えは次のようになりました。
果たして結果は!?
弁理士の回答とAIの回答が出揃い、いよいよ結果発表!
じゃじゃーん。
正解はこちら
私が選んだ商標が正解として表示されました!
一方のAIの回答にはこの商標はありませんでした。
ということで、私の勝利となりました。
さいごに
対決の開始早々、AIの検索スピードは相当なものだったようです。
また、AI側も正解と同じ先行商標がヒットしていた可能性が高いと思います。
そのため、見落としなく先行商標を選びさえできていれば引き分け(スピードも加味したら実質的には負け)の可能性がありました。
ステージ上では、調子に乗って「AI大したことない」なんて暴言を吐いてしまいました。ごめんなさい・・・。
今回の対決では、AIの検索スピードにおいて、人はかなわないことがよくわかりました。
今後は、AIを使った図形商標検索が一般化していくのではないでしょうか。
でも、その場合でも弁理士が類否の最終結論を下すという点においては変わらないと思います。
今日ではパソコンをはじめとするIT機器を使えないと仕事にならないのと同じように、今後はAIを使いこなすことが求められる時代になるのでしょう。
AIを使いこなす弁理士が生き残り、そうならなければ、『AIに仕事を奪われてしまう弁理士』になってしまう気がします。
弁理士の将来の可能性が見えた対決となりました。
この対決を企画した特許業務法人Toreruの宮﨑先生をはじめ、イベントに携わった皆様には本当にお世話になりました。ありがとうございました。
また、今後もいろいろなところで切磋琢磨していけたら面白いなぁと思います。
商願2019-067849を見てみると、登録第6132173号のみならず、登録第6132172号も引用されていますね。
さすがは中村先生、引用商標は完全一致でしたね。
ありがとうございます!
審査官が「人」ということもあるので、AIによる効率化があるとしても、専門家である弁理士による最終判断が必要な時代は当面続くと思います。