「会社名+数字」で車名を表す利点と課題(MAZDAの例)
先週、自動車のマツダが、『アテンザ』の車名を日本でも海外名称と同じ『MAZDA6』に統一し、『デミオ』についても同様に『MAZDA 2』に変更する方針であると報じられました。
「アテンザ」は「MAZDA6(マツダ・シックス)」、「デミオ」は「MAZDA2」に――。マツダは日本だけで使ってきた愛称風の車名を廃止し、海外向けと統一する。
日本経済新聞 2019年7月5日 朝刊より
今回は、「会社名+数字」で車名を表すことに、どういう利点や課題があるのか考えてみました。
車名変更の概要
これまでは、アクセラやアテンザ、デミオ等、車種ごとに、それぞれ別の名前が使われていました。
今回、これを「MAZDA+数字」で表した車名に変更するということです。
すでに5月からアクセラは「MAZDA3」に変更されており、今後、他の車種についても、モデルチェンジのタイミングに合わせて、車名の変更がなされる見込みです。
ただ、「ロードスター」(海外名称:MX5)については、例外として、今後も「ロードスター」の名称が使用される方針です。
実務上の利点
では、この車名の付け方は、どのような利点があるのでしょうか。
パッと思いつくのには「①車名決定の効率化」、「②商標権取得の容易化」が挙げられるでしょう。
車名決定の効率化
車名には、その車種に対するイメージを具現化した名前を採用するのがこれまでの車名決定の定石でした。
そのため、車名の決定は、社内だけでなくネーミング考案の専門家なども巻き込んで行われることもしばしばです。
ここで、決めた車名が他社の商標権を侵害してしまうと、販売後に車名の変更が必要になったり、最悪の場合、車名変更が完了するまで販売停止になってしまう可能性もあります。
そのため、事前に他社の商標権を調査して、「この車名なら商標権侵害が起きない。」という確信をもって、車名を最終決定します。
多くの車名案を考案し、商標調査をする。
もうそれには多くの労力が必要なのです。
それを今回のように「MAZDA+数字」の車名に変更すれば、マツダ以外に「MAZDA」を自動車について商標権を有する企業は無く、かつ、数字一文字についての商標登録は通常無理なので、極めて高い確率で、他社の商標権侵害のリスクは回避できるようになります。
そうすると、車名に「MAZDA+数字」を採用すると、車名決定においてすることは、「数字を選ぶ」ことに尽きるわけです。
つまり、車名を「MAZDA+数字」にすると、車名決定業務の効率の面において、非常にメリットがあるのです。
商標権取得の容易化
そして、車名決定の効率化の延長線上の話として、「MAZDA+数字」の構成からなる商標は、マツダにとっては、商標権が取得しやすい商標になるのです。
マツダ以外に「MAZDA」を自動車について商標権を有する企業は無く、かつ、数字一文字についての商標登録は通常無理なので、「MAZDA+数字」の商標は、マツダにとって、商標権取得のハードルが非常に低いのです。
そのため、商標権の取得の面でも効率的になるのです。
気を付けるべき点(課題)
となると、良いことづくめですが、気を付けるべき点(課題)はないのでしょうか。
あります。
あの車はどの車?
例えば、テレビCMでマツダのかっこいい車を見つけて、その記憶を頼りにお店で試乗させてもらおうと思ったとき、
あれ?どの車だっけ?名前は「MAZDA1? MAZDA2?MAZDA3??」???
となるかもしれません。
特に、最近は自動車の前面のフロントグリルの形が、車種を超えて統一される傾向があり、ぱっと見の印象は各モデルで共通することが多くあります。
「MAZDA+数字」のコンビネーションで確実に車種を覚えてもらう工夫が必要かもしれません。
商標登録は不要か?
また「MAZDA+数字」の車名なら、「MAZDA」で商標権を取得しているから、商標登録は不要になるのでしょうか。
そんなことはありません。
上述のように、「MAZDA+数字」のコンビネーションで確実に覚えてもらう必要があるということは、お客様は「MAZDA+数字」で車種を認識します。
ということは、「MAZDA+数字」が個々の車のブランドとして認識されるのです。
そうすると、「MAZDA+数字」の商標権を取得すべき、ということになります。
実際に、マツダは、「MAZDA3」や「MAZDA6」などもちゃんと商標登録しています。
同様の車名を採用をしているBMWにおいても「BMW M」や「BMW X5」などを商標登録しています。
商標登録が不要になるわけではないので、そこは効率化の名のもとに省略してはいけないでしょう。
さいごに
フロントグリルの統一感に続き、車名の統一感が出てきた車業界。
車名の統一感が増すことで、ブランド効率が向上することは確かで、とても良い試みだと思います。
人手不足の昨今、企業の業務効率化に貢献する動きだと思います。
ただ、この動きが他の車メーカーにも波及するかというと、そうではないかもしれません。
車種を絞って展開するマツダだからこそ、複数の車種に「MAZDA」の文字を使っても、車のイメージを具現化した車名であることを維持できたのだと思います。
車種ごとに個性が大きく異なるトヨタには向いていないと思います。
車名決定の方針も、既存の商品やサービスのブランドとの関係をちゃんと考えなければいけないと感じさせる話題でした。