商標「KIMONO」の問題は解決したのか

2019年6月下旬、アメリカのキム・カーダシアン・ウェストさんが、「KIMONO」という名前の補正下着ブランドを発表し、さらに商標出願していたことが報じられ物議を醸しました。

最終的には、2019年7月1日に、キム・カーダシアンさんからブランド名を変更することが発表されました。

これにより、今回の問題は、無事に収束されると思います。

でも、今後も同じような問題が出てくる可能性は大いにあります。

今回はこの問題について、商標法とは少し離れた観点で私の考えをお伝えします。

商標「KIMONO」から生じる問題点

私が思うに、「KIMONO」の商標出願から生じる問題は二つありました。

問題点①

問題点の一つは、補正下着という服飾関連商品について「KIMONO」の商標権が認められると、着物を扱う業者(製造業者、小売業者など)が「KIMONO」という言葉を使用することに対して部分的にでも制約が課されてしまい、ビジネスに悪影響を与えてしまうのではないか、と危惧される点です。

問題点②

もう一つの問題点は、「KIMONO」という言葉を、着物とは関係のない製品に使ってもらいたくない、という、どちらかというと情緒的な問題です。

この問題点には、「着物(KIMONO)」という言葉の意味合いが、薄められたり(希釈化)、歪められたり(汚染化)してしまうという危機感も含まれると思います。

「KIMONO」の出願内容

「KIMONO」の商標出願は全部で4件あります。

これらの商標はまだ審査の段階なので、登録されたわけではありません。

とはいっても、アメリカでは商標が登録されていなくても、使用によって商標権が発生するという法制度を採用しています。

つまり、登録が認められなくても補正下着のブランド名として「KIMONO」を使用することで商標権が発生した可能性があるのです。

ただ、どんな言葉でも使用すれば商標権が発生するわけではなく、当然ながら商品の普通名称や記述的な言葉について、商標権を主張することはできません。

こういう状況下で、今回の「KIMONO」の商標出願について米国特許商標庁での登録が認められると、指定した商品やサービスの普通名称や記述的な言葉ではないということが確認される結果になります。

つまり、キム・カーダシアンさんによる「KIMONO」の商標権の主張の可否において、出願されている商標「KIMONO」の登録が認められることは、 重要な意味を持っていたことは確かです。

なお、商標出願の範囲(指定商品・サービス)には、「着物」自体は入っていないので、たとえ、これらの商標の登録が認められたとしても、「着物」を「KIMONO」と表現することには何らの制限もされないでしょう。

商標「KIMONO」が登録されなければ問題は解決していたのか

では次に、商標「KIMONO」の登録が認められなければ、問題はすべて解決していたのでしょうか。

商標出願が拒絶されれば、「KIMONO」の文字を、指定した商品・サービスについて使用する独占権が認められなくなります

そのため、前記した問題点①『「KIMONO」という言葉を使用することに制約が課されてしまう』懸念は解決するでしょう。

一方で、商標権は、商標として言葉を使用する独占権ではあるものの、使用に際しての条件ではありません。

言い換えると、「商標の登録が認められなかった事実」があったとしても、そのことが直接的に「商標を使ってはいけない」ということを意味するのではないのです。

ということは、商標「KIMONO」が登録されなくとも、キム・カーダシアンさんは、「KIMONO」のブランド名を使用して補正下着を売り続けることができたのです。

つまり、米国特許商標庁の判断をもって、問題点②『「KIMONO」という言葉を、着物とは関係のない商品に使ってもらいたくない』ことは達成できません。

登録できなかったから、使用を止めろとは誰も言えないのです。

京都市は、市長の名義で、キム・カーダシアンさんに、「KIMONO」の使用を再考するように手紙を出したようですが、この対応は、商標の登録が認められなくても使い続けられることを踏まえておこなったのかもしれません。

出典:京都市のウェブサイト

結果的に、この対応はうまくいきました。

この解決で「着物(KIMONO)」は安泰か?

突き詰めれば、「KIMONO」を、服飾関係とは無関係の商品(例えば、「自動車」や「バスタブ」)に登録することは、補正下着などの服飾関係の商品についての登録よりも容易です。

例を挙げれば、「FUJISAN」という言葉は、商品「イヤフォン及びヘッドフォン」についてアメリカの企業によって、アメリカで商標登録されています(登録番号4952420)。

また、今日において「AMAZON」と聞いて、ネット小売り大手のAmazon社を認識する人と、アマゾン川を認識する人、どちらが多いでしょうか。

インターネットの検索結果では一目瞭然と思います。

アマゾン川流域に住む人にとっては、Amazon社は、自分たちの地域名を盗んで商売している企業と思う人もいるかもしれません。

でも、これらの例は、何も違法ではなく、「FUJISAN」や「AMAZON」の使用は制限されません。

これらの例と同じ様に、「KIMONO」という言葉について、日本国民が意図しない使用方法であることを理由に、言葉の使用を制限することは本来的には困難です。

今回の解決は、法律とは別の、社会的な批判により、名称の採用を断念させることができたと理解しておくべきです。

だからといって、今後、「KIMONO」の言葉の使われ方を監視して、意図しない使われ方を批判するのは現実的ではないと思います。

では、「着物(KIMONO)」を守るにはどうするのか、というと、やはり、日本及び海外での着物文化の普及だと思います。

ローマ字「KIMONO」が持つイメージを伝統文化としての「着物」に集約させることが重要です。

そのためには、着物文化の更なる普及が必要なのだと思います。

2013年にユネスコの無形文化遺産に「和食」が選ばれました。

これは、日本の食文化が日本の生活風習の一つとして評価されたからにほかなりません。

そうなれば、誰も「WASHOKU」を、例えば、洋菓子に使用しようとは思いません。

京都市長の手紙でも触れられていますが、「きもの文化」もユネスコの無形文化遺産への登録を目指しているとのことです。

それを後押しする活動、つまり、「きもの文化」の普及・啓発活動が、結果として、第三者が「KIMONO」を「着物」とは関係のないものに使用するモチベーションを下げるのではないでしょうか

さいごに

今回は、商標法の問題というよりも、日本の伝統文化のブランディングという観点での対応が必要な問題だと思います。

「KIMONO」の意味を「着物」に集約させること、ひいては、着物文化の保護、発展には、着物の一層の普及が欠かせないと思うのです。

日本のビジネスパーソンの正装スタンダードが着物になったらかっこいいと思いますけど、どうでしょうか。

着物に限らず、日本の伝統文化の名称は、日本をイメージするものとしてブランド名に採用されやすいと思います。

商標出願が契機になったとはいえ、商標の登録の可否だけでは解決困難という点を認識して対応する必要があった問題だと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です