弁理士(特許事務所)を選ぶ前に知っておきたいこと
前回の記事「知的財産の専門家「弁理士」とは?」で弁理士についてご紹介しました。
弁理士は、「知的財産(事業活動に有用な技術上・営業上の情報)」の保護や活用の専門家で、企業や事業を営む個人が保有する”事業活動に有用な技術上・営業上の情報”を保護し、活用することを通じて、事業が円滑に回るようにサポートする仕事をしています。
では、”事業活動に有用な技術上・営業上の情報”を保護しようと思ったとき、どうやって弁理士や特許事務所(知的財産事務所)を選べばよいのでしょうか?
今日はこの考え方について書きたいと思います。
知的財産の種類
知的財産は「事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」で、その種類や分類は次のとおりです。
この中で、”産業財産権”は、特許庁という役所に書類を提出し、審査で認められると権利が発生します。
弁理士は、この産業財産権の権利化のお手伝い(代理)をするのが最も得意な業務です。
弁理士にも専門分野がある
上記のとおり、「産業財産権」の中には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権と複数あります。
そして、弁理士は、法的には、これらのいずれの産業財産権についても、権利化のお手伝いができます。
では、「弁理士なら誰でも、どんな産業財産権でも依頼して全く問題ないか?」というと、そうではありません。
弁理士の中には、特定の”産業財産権”しか取り扱ったことがない人もいます。
私自身、意匠や商標の手続には自信がありますが、特許の代理経験はほぼありません。
つまり、弁理士には、取り扱える知的財産権(産業財産権)の中で、さらに専門性があるのです。
特許を主に担当する弁理士
産業財産権のうち、”特許権”や”実用新案権”のような発明や考案などの技術に関する権利は、年間の出願件数が他の産業財産権に比べて多く、担当する弁理士の総数が最も多い分野です。
弁理士のうち8割以上は理工系出身者が占め、業界内でも「弁理士=特許出願の代理人」というイメージが強くあります。
ここで、気を付けないといけないのは、同じ特許を担当する弁理士でも技術分野によって得手不得手があることです。
例えば、同じ理工系でも、機械、IT、化学、生物等の分野があり、専門と専門外の技術分野が必ずが存在します。
知り合った弁理士の専門分野と、自社の発明の分野が一致すれば、特許出願書類の作成に向けたコミュニケーションは円滑になるでしょう。
一方で、まったくの専門外だった場合は、特許出願書類の作成に時間が掛かったり、的確に発明の内容を把握してもらえないかもしれません。
よく言われるのが、化学の専門性です。
この分野は化学式が読めないとどうしようもないことも多く、複数の分野の特許を手掛ける弁理士でも、化学は無理という人もいます。
意匠・商標は弁理士なら誰でも同じ?
一方で、意匠権や商標権の分野では、特許のように、分野(業界)の専門性が問題になることはあまりありません。
それは、技術的知識のバックグラウンドが必ずしも必要ではなく、法的な知識や経験によって、多くの分野(業界)の対応ができるからだと思います。
そのため、特許を専門としていても、商標や意匠の依頼も受任する弁理士がほとんどです。
ただ、意匠や商標それぞれの分野に特化して仕事をしている弁理士と、特許を専門にしている弁理士とでは、権利取得の内容に差が出てくることがあります。
それは、最新の実務やクライアントのビジネスの現在と将来性を考慮して、より踏み込んだ権利取得の内容を提案できるからだと思います。
特許事務所の種類
次に、弁理士に手続きを依頼しようと思ったら、通常は、インターネットなどを利用して、弁理士が所属する特許事務所(「知的財産事務所」や「弁理士事務所」と呼ぶこともあります)を探します。
でも、特許事務所にどんなものがあるか理解していないと、自社・自分には合っていない事務所に依頼してしまうかもしれません。
そこで、特許事務所の種類を病院に例えて説明します。
全法域をカバーする特許事務所(総合病院型)
特許、実用新案、意匠、商標の産業財産権の全法域をカバーする事務所です。
病院で例えると、総合病院です。
総合病院に医師が複数在籍しているように、このような特許事務所には、弁理士も複数在籍しているのが通常です。
また、総合病院では各専門分野ごとに医師が異なるように、全法域をカバーする特許事務所には、特許担当の弁理士、商標担当の弁理士、意匠担当の弁理士と、各専門分野別に弁理士が在籍しており、各弁理士が、専門性の高いサービスを提供してくれます。
いろんな分野を扱う企業であれば、このような特許事務所に依頼するのが良いでしょう。
専門特化型の特許事務所(眼科、歯科型)
特定の技術分野の特許や商標、意匠など、一部の知的財産権に特化して専門性が高いサービスを提供している特許事務所です。
病院で例えると、眼科や歯科などその分野の業務のみを受け持つような病院です。
このような専門特化型の特許事務所では、その分野の実務に精通し、専門性の高いサービスを提供してくれます。
また、専門分野以外については、他分野の専門特化型の特許事務所とのネットワークを通じて、クライアントの知的財産の保護に努めるのが通常です。
特定分野の知的財産が多い企業では、このような専門特化型の特許事務所に依頼すると、担当者の固定化も期待できて良いでしょう。
ちなみに、Markstone知的財産事務所は、専門特化型の事務所です。
小規模だけど何でも相談できる特許事務所(かかりつけ医型)
規模が小さくても、特許、実用新案、意匠、商標の全分野を担当する特許事務所もあります。
病院に例えると、かかりつけ医のように何でも相談できる存在です。
最近では、中小企業による知的財産権の取得が多方面から注目されています。
こういう中小企業等に向けて、小規模ながらしっかりとサービスを提供できる特許事務所が実は多くあります。
技術の保護を主な目的としてまずは相談という場合や親身に話を聞いてもらいたい場合には、こういったかかりつけ医的な対応をしてくれる事務所が良いと思います。
さいごに(弁理士・特許事務所の選び方)
このように、弁理士にはその専門分野があり、また、特許事務所も規模や内容によって、特色があります。
ここに述べた以外にも、外国での権利取得に強みを持つ弁理士や特許事務所もあります。
紹介で知った弁理士やネット検索で知った事務所が、何を専門とする弁理士なのか、どのタイプの特許事務所なのかを把握して、自社が保護したいと思っている知的財産(産業財産)の内容・分野の対応ができそうか確認することが大切です。
最初の段階では、複数の事務所を依頼先候補として選んでいても良いと思います。
そのうえで、費用や担当する弁理士とのコミュニケーションのやりやすさ等を考慮して、依頼する事務所を決定すればよいと思います。
まさに病院選びと同じなのです。