商標権の取得までの所要日数とその短縮方法
「商標出願してどのくらいの日数で登録が確定するんですか?」と、よく聞かれます。
そして、その答えを聞いて、「そんなに時間かかるんですか???」と、これまたよく言われます。
商標出願すると特許庁の審査官が審査します。
昨年度(2018年4月~2019年3月)の商標出願の件数は、約19万件にもなりました。
ここ数年、商標の出願件数は大幅に伸びています。
一方で、特許庁における商標審査官の数は、簡単に増やせるものではなく、約130人の体制です。
そのため、出願件数の増加に伴って審査待ちの案件が増えていくのです。
今日は、登録までの所要期間とその短縮方法をご紹介します。
通常の審査期間
数年前までは5~6ヶ月ほどの時間で登録されていました。
ところが、最近の審査状況では、9ヶ月、10ヶ月が当たり前になっています。
そして、特許庁が公表している最新の商標審査着手状況によると、今、商標出願した場合、審査着手まで10ヶ月~14ヶ月掛かると発表されており、通常の審査期間では審査結果がでるまで約1年掛かります。
以前の倍の時間です。
審査待ちの期間は、商標(商品やサービスの名称)を使っても問題ないかどうかが確定しない期間と言い換えてもいいかもしれません。
そう考えると、企業や事業主としては、審査待ちの期間は短いに越したことはないでしょう。
短縮方法
特許庁も審査期間が長くなっていることを把握しており、案件ごとに審査を早める手段を提供しています。
ファストトラック審査
ファストトラック審査とは、審査負担の少ない出願を対象に、通常の審査よりも2ヶ月程度早く審査結果を知ることができる審査制度です。
以下の二つの条件を満たすことで自動的にファストトラック審査の対象になります。
- 商標を使用する対象商品やサービス(「指定商品・指定役務」)が「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表」に記載された商品・役務のみであること
- 審査着手時までに指定商品・指定役務の補正を行っていないこと
「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表」に記載された商品・役務の記載によって、出願する商標の使用対象をカバーできる場合には、ぜひ利用したい制度です。
特許庁の発表「商標審査に「ファストトラック審査」を導入します」及び本ブログでの紹介記事「ファストトラック審査の施行」も併せてご覧ください。
早期審査
早期審査は、一定の要件の下、出願人の申請に基づいて、審査を通常に比べて早く実施する制度です。
早期審査の対象として認められると2ヶ月ほどで審査結果が届きます。
早期審査の対象にできる商標出願には次の3つがあります。
対象1
一つ目は次の二つの要件を満たした出願です。
- 出願商標を指定商品・指定役務に使用している、又は、使用の準備を相当程度進めていること
- 権利化について緊急性を要すること
ここで、「1. 出願商標を指定商品・指定役務に使用している又は使用の準備を相当程度進めていること」については、指定商品・指定役務が複数ある場合にはその一部について該当すれば大丈夫です。
また、「2.権利化について緊急性を要すること」は、出願商標について、 a) 第三者が商標を使用している、b) 第三者から警告を受けている、c) 第三者から使用許諾を求められていること、d) 外国に出願中であること、e) 国際出願の基礎出願とすること、が挙げられています。
この中で使用しやすいのは、「e) 国際出願の基礎出願とすること」 だと思います。
実際に国際出願する前でも国際出願をする意思の宣誓書を提出すれば大丈夫です。
対象2
二つ目は、次の要件を満たした出願です。
- 出願商標を既に使用している商品・役務又は使用の準備を相当程度進めている商品・役務のみを指定商品・指定役務としていること
この要件は、シンプルです。
商標を使っている商品・役務についてのみの出願であることです。
ただ、権利化される商品・役務の範囲が必然的に狭くなるので、複数の商品やサービスについて将来使用する予定の商標には向かないかもしれません。
対象3
三つ目は、次の要件を満たした出願です。
- 出願商標を指定商品・指定役務に使用している、又は、使用の準備を相当程度進めていること
- 指定商品が「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表」に記載された商品・役務のみであること
「1. 出願商標を指定商品・指定役務に使用している又は使用の準備を相当程度進めていること」については、対象1と同様に、指定商品・指定役務が複数ある場合にはその一部について該当すれば足ります。
また、「2.指定商品が「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表」に記載された商品・役務のみであること」については、上記のファストトラック審査の条件と同じです。
既に使用している又は使用準備が進んでいる商標について、比較的容易に早期審査の対象とできるのがこの対象3だと思います。
ファストトラック審査よりも大幅に審査が早くなるので、使用している又は使用準備が進んでいる商標については活用を検討すべき早期審査です。
さいごに
以上をまとめると以下の図ようになります。
商標によってブランドを守ることが大前提のため、早期権利化だけのために無理やりファストトラック審査や早期審査の対象にする必要はありません。
ビジネス展開を急ぐ場合や商標権を取得できるか微妙なケースなど、審査結果を早く知りたい場合に、ファストトラック審査や早期審査の対象にすることを前提に出願内容を検討すればよいと思います。