同じ引用商標でも異なる結論に~結合商標の類否判断を分けた原因~

結合商標の類否判断では、同じ引用商標が用いられていても、出願商標の構成や指定商品・役務との関係によって、結論が異なることがあります。
今回は、審査段階において、同じ引用商標「SAMURAI」を理由に拒絶査定となったものの、不服審判において異なる結論に至った審決を取り上げます。
一見すると矛盾のある結論ですが、具体的な内容を比較すると、結合する文字の構成や指定商品・役務の分野における認識が判断に影響していることが見えてきます。
引用商標
対象となる引用商標は、以下の「SAMURAI」の文字からなる商標です。

事例1:横浜家系らーめん侍(不服2023-6977)
一つ目の事例は、以下の商標に関する事件です。

審決では、「横浜家系らーめん」の文字部分について、『商品の品質又は役務の質を表示するものといえ、自他商品役務の識別標識としての機能を有しないか、又は、その機能が極めて弱い』と認定されました。
その結果、「侍」の文字部分を要部として抽出したうえで、引用商標「SAMURAI」と類似すると判断されました。

事例2:侍エージェント(不服2025-19981)
二つ目の事例は、以下の商標に関する事件です。

審決では、『本願商標の構成中「エージェント」の文字部分が「仲介業者」の意味を有するとしても、本願商標の上記構成及び称呼からすれば、当該文字部分が役務の質等を表したものと直ちに認識されるとはいえず、むしろ「侍エージェント」の構成文字全体をもって、一体のものとして認識され、把握されるとみるのが相当である。』と認定されました。
その結果、「侍」の文字部分を要部として抽出することはできず、引用商標「SAMURAI」とは非類似との結論に至りました。

二つの事例の相違点
二つの事例は、いずれも「侍」という文字を含む結合商標であり、引用商標も同じ「SAMURAI」です。
それにもかかわらず、結論が分かれました。
両者の相違点を挙げると、主に次の三つがあります。
①「侍」の文字の位置(語頭 or 語尾)
② 結合する他の文字の構成(「横浜家系らーめん」 or 「エージェント」)
③ 商品役務の分野(飲食関連 or 人材関連)
このうち、①については、「SAMURAI」と同種の言葉ともいえる「NINJA\忍者」の文字からなる引用商標を理由に、商標「忍者ラーメン」が拒絶となった審決があるため(不服2025-7951)、比較対象部分が語頭にあるか語尾にあるかが決定的な判断要素になったとは言い切れなさそうです。


そうすると、単に「侍」の文字が語頭にあるか語尾にあるかだけで結論が決まったわけではなく、「②結合する他の文字の構成」や「③商品役務の分野」が、より実質的に判断へ影響したと考えるのが自然です。
つまり、結合する他の文字(「横浜家系らーめん」や「エージェント」)が、指定商品・役務の分野においてどのように使用され、需要者にどのように認識されるのかが、個別的に検討されるのだと考えます。
その結果、結合する他の文字部分が品質表示にとどまると判断されれば、「侍」が要部として抽出されやすくなります。
「横浜家系らーめん」の事例では、”横浜家系らーめん” の文字は、商品それ自体や役務の提供物を表す言葉であり、品質を表示する文字にとどまります。
他方で、結合する他の文字部分が単なる品質表示としては認識されない場合には、「侍」が要部として抽出されづらくなります。
「侍エージェント」の事例では、”エージェント” の文字は、「仲介業者」ほどの意味合いであり、指定役務の提供内容(=求人情報の提供,職業のあっせん,人材紹介)それ自体を指す言葉ではありません。
このような検討があったため、結論が異なったと考えられます。
なお、本記事では検討しませんでしたが、実際の類否の判断の場面では「侍」の文字についても、指定商品・役務の分野でどのように使用され、認識されているかについても検討が必要になります。
実務上のポイント
今回の二つの審決は、結合商標の類否判断において、「どの部分が識別力を発揮するのか」を個別具体的に検討する必要があることを示しています。
特に、他人の登録商標と同一又は類似する語を含む商標を採用する場合には、その語が商標全体の中でどのような役割を果たしているのか、結合する語が指定商品・役務との関係で品質表示として理解されるのか、一体不可分のブランド名として認識されるのかを慎重に検討する必要があります。
また、出願段階では、単に「他の語を付け加えれば大丈夫」と考えるのは危険です。
付け加えた語が商品の内容や役務の質を示すにすぎない場合、その部分は類否判断上あまり重視されず、残りの部分だけで先行商標と比較される可能性があります。
反対に、商品の内容や役務の質を直接的に示さない場合には、商標全体として非類似と判断される余地もあります。
同じ引用商標であっても、出願商標の構成、各構成部分の識別力、指定商品・役務との関係、需要者の認識などを踏まえて、結論は変わり得ます。
今回の二つの審決は、一見すると矛盾するように見える判断であっても、個別具体的な事情を丁寧に見ていくことで、その違いを理解できることを示す最近の特許庁の判断事例といえます。

