不使用取消審判の代わりにコンセント制度の利用はありか!?

2024年4月に導入されたコンセント制度※に関し、2025年4月に初の登録事例がでたことを本ブログ「コンセント制度による初の登録事例」でも取り上げました。
その後もコンセント制度による登録が定期的に出ており、本記事の執筆時点ではすでに7件の登録が確認でき、実務上のニーズが高い制度であることがうかがえます。
その中に、先行商標の権利者が使用していない指定商品の範囲についてコンセント制度で登録を認めた事例がありましたのでご紹介します。
※コンセント制度とは
商標審査において先行商標を理由に拒絶される商標であっても(=商標法4条1項11号に該当する場合であっても)、
・出願人が商標登録を受けることについて、先行商標の権利者が承諾しており、かつ、
・先行商標の権利者の商品・役務と出願人の商品・役務との間で混同を生ずるおそれがない場合に、
登録を認める制度です。
先行商標との間で実際には混同が生じないにもかかわらず審査で拒絶されてしまうような弊害を、企業間の協力次第で解決でき、商標登録の柔軟性が増すことが期待されます。
本件商標(登録された商標)
今回登録された商標は、2020年に広告代理業として創業し、その後フレグランスブランドを立ち上げた株式会社八雲が出願した以下の商標です。(登録第6959455号)。

株式会社八雲が本件商標を実際に使用している商品は、「なりたい気分で香りを選ぶ新体験の『お香』」として企画された商品です。
指定商品である「薫料」の下位概念にあたる「線香」の範疇に該当する商品と言えます。
商品のウェブサイトをご覧いただくとお分かりいただけるように、従来の「線香」が持つ宗教的・儀式的な用途とは異なり、日常的にカジュアルに使用することを想定した線香であることがわかります。
先行商標
先行商標は、花王株式会社が登録している以下の3件の商標で、標準文字やデザイン化された「melt」の文字から構成されます。

指定商品は第3類と第10類の商品を指定して出願されていますが(商願2023-87068については加えて第21類も)、いずれも第3類の「せっけん類,香料,薫料,化粧品」を指定商品に含んでいます。
つまり、本件商標と先行商標との指定商品の比較では「薫料」について完全に抵触しています。
ただ、花王株式会社がこれらの商標を実際に使用している商品は、女性向けのヘアケア商品といえます(商品ウェブサイトをご参照ください)。
意見書・合意書の内容
本件商標の出願経過を見ると、株式会社八雲は意見書において、
・本件商標が「薫料」(お香)に使用されていること、
・引用商標は「シャンプー」「トリートメント」などの「せっけん類,化粧品」に使用されていること
を説明し、 実際の使用商品の比較においては「薫料」と「せっけん類,化粧品」とで非類似商品に使用されていると主張しています。
さらに、提出された当事者の合意書においては「出願商標と引用商標を同一商品に使用することはない」と合意されています。
不使用商品との抵触を回避するためにコンセント制度を利用!?
そうすると、引用商標は商品「薫料」について不使用状態であり、将来にわたっても不使用状態が継続することが予見されます。
このような使用しない指定商品との抵触を回避するためにコンセント制度を利用した登録を認めてもよいのでしょうか?
少なくとも、商標は「使用すること」が前提で出願するものなので、問題意識は必要だと思います。
このようなケースの場合は本来的には、権利者と交渉して指定商品の削除(権利の一部放棄)をしてもらうか、不使用取消審判で解決を図るのが本来的な形だと思います。
ただ、本件の引用商標はいずれも2024年に登録されたものであるため、取消のために3年間の不使用期間が求められる不使用取消審判は2027年にならないと請求できない状況でした。
そのため、すでに商標の使用を開始していた株式会社八雲としては、不使用取消審判の請求可能時期まで待つことは現実的ではなく、交渉をして、登録や使用の安全を確保を目指す必要があったのだと思います。
そのため、最終的にコンセント制度による早期の登録を狙ったものと考えられます。
引用商標の権利者である花王株式会社としても、将来的な不使用取消審判を受けるリスクを減らすことができる可能性のあるコンセント制度は、指定商品の削除よりも利便性が高いと考えたのかもしれません。
このように、本事例は、コンセント制度を、不使用取消審判ができない場合の代替手段として実務的に活用できることを示した事件と言えます。
また、不使用取消審判ができる状況においても、不使用取消審判という当事者対立構造になるよりも、交渉によって当事者間で穏便に解決できる方法としても活用できると考えられ、コンセント制度は今後の商標実務上、検討が必須の事項になると思います。