サッカーワールドカップの公式ロゴの商標

サッカーワールドカップは世界最大級のスポーツイベントです。

大会期間中はテレビ放送だけでなく、飲料、アパレル、飲食店の販促など、さまざまな場面でワールドカップ関連の表示を目にします。

こうした巨大イベントを支えているものの一つが、実は「商標権」です

今回は、2026 FIFAワールドカップの公式ロゴを題材に、イベントビジネスと商標との関係について見てみたいと思います。

シンプルになった2026年大会の公式ロゴ

2026 FIFAワールドカップの公式ロゴはこちらです。


※FIFA公式Xアカウント「@FIFAWorldCup_JP」より

公式ロゴは2023年5月17日に発表されました。トロフィーの写真と開催年を組み合わせた非常にシンプルなデザインです

これまでの大会では、開催国の文化や色彩を反映したロゴが多く採用されてきました。

しかし、2026年大会は米国・カナダ・メキシコの3か国共催です。

そのため、特定の国を象徴するデザインではなく、「トロフィー」という大会共通のシンボルを全面に押し出した構成となっています。

都市ごとに展開できる「拡張型ブランド」

もっとも、このロゴにはもう一つ特徴があります。

開催都市ごとに数字部分のデザインを変更できる仕組みになっていることです。

例えばメキシコのモンテレイ版では、地域性を反映した配色やデザインが採用されています。

これはブランド実務の観点から見ると非常に興味深い設計です。

ブランドの統一性を維持しながら、各開催都市が独自性を表現できるからです。

このような手法は、「拡張可能なブランド設計」 の好例だと思います。

本部がガイドラインを管理しながら、地域単位で派生展開を認める考え方は、多店舗展開する企業やフランチャイズビジネスにも通じるものがあります。

以前からコカ・コーラは、現地言語によるロゴデザインを英語のロゴと同じようなフォントで再現しており、これと似たようなやり方と言えます。

ロゴ発表日に商標出願

このロゴマークに関しては、トロフィー部分が白抜きになった下記の態様で商標登録がなされています。

興味深いのは、商標出願のタイミングです。

このロゴは、発表当日の2023年5月17日にスイスで出願され、その後、同出願を基礎として国際登録出願が行われています。

巨大イベントの場合、ロゴ公開と同時に第三者による便乗的な出願が発生するリスクがあります。

そのため、ロゴの発表と権利取得を同時に進めています。

ただし、同日出願のリスクがあるため、本来は発表の前日には出願すべきだったと考えます。

これは、実務上は非常に重要なポイントです。

世界中で同じ範囲の権利を取っているわけではない

国際登録では指定国として77か国が指定されています。

興味深いのは、すべての国で同じ区分を指定しているわけではないという点です。

全体の指定商品・指定役務の区分は38に及びますが、国によって指定する区分に違いがあり、商業的重要性を考慮しながら権利範囲を調整しているように見えます。

これは一般企業でも参考になります。

商標実務では、「世界中で同じ出願をすればよい」わけではありません。

商品展開の実態、ライセンシング計画、権利行使の必要性などを踏まえて、国ごとに保護範囲を設計することが重要です。

ワールドカップにおいては、スポンサー企業による商品展開なども考慮されているように思います。

日本においては、印刷物やアパレル、飲食物のほか放送やエンタメ分野など22 の区分で出願されていました(日本登録へのリンク)。

なぜ開催国は国際登録を使わなかったのか

さらに興味深いのは、開催国である米国・カナダ・メキシコが国際登録の指定国に含まれていないことです。

これらの国では直接出願による保護が選択されています。

理由は公表されていませんが、

  • 中間手続や権利取得後の対応
  • 権利範囲の細かな調整
  • ライセンス管理との連携

などを考慮し、開催国では個別の出願で管理したかった可能性があります。

商標はイベントビジネスを支えるインフラ

ワールドカップのロゴは単なる大会の表示としての利用にとどまりません。

アパレル、食品、飲料、テレビ放送、デジタルコンテンツなど、多数の商品・サービスで利用されます。

大会期間中にはスポンサー企業の商品パッケージにも採用され、世界各国で活用されています。

そして、それらのライセンシングビジネスを法的に支えているのが商標権です。

観戦している側からはあまり意識されませんが、スタジアムの外側で動いている巨大なビジネスの基盤として、商標権は重要な役割を果たしているのです。

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